田廻音楽事務所 TAMAWARI Musical Office

オカン ブロードウェイへ行く

(決定稿)

台本 清水順
作詞・作曲・台本補作 田廻弘志

台本に関する留意点

 この台本は、決定稿台本であり、初演時の上演台本とは異同がある。初演時は、俳優・上演時間・演出等の都合により、演出家の手によって決定稿よりさらに改訂された。

 台本中の数字は、物語上の切れ目を示すものであり、場景の転換を意味するものではない。

 音楽が演奏される箇所において、(『)以下の部分は台詞であり、特に指示のないものは歌詞である。

登場人物

安西孝江
兼島幸子
遠藤加奈子
吉村公恵
笹本理恵子
高山良美
上条弘子
時森千絵子

秋本雄一
雪村千景(由希子)
高畑弘文
淡路浜男
吉村真那加

マイケル・ロズマン
マイケルの通訳
ジャン・ドゥ・ボワール
ジャンの通訳
カール・ヘックマン
カールの通訳
スティーブ・ホワイト
スティーブの通訳
ジム・アレン
アレンの通訳

座長
レポーター
記者1
記者2
記者3
批評家1
批評家2
批評家3

ニューヨークの人々

核分裂ダンサー(ダンサー)
海兵隊員&花売りの娘(ダンサー)

ミュージカルナンバー

オープニング〜第一幕

No.1 それがウチらの歌 / おばさんたち
No.2a 乙村へ(劇伴奏)
No.2b 乙村へ / おばさんたち
No.3 舞台は夢 / 千景
No.4 日曜ミュージカル / おばさんたち、千景&秋本
No.5 運命の女神 / 千景
No.6 どうなる?舞台/ マイケル通訳&マイケル、ジャン&ジャン通訳
No.7 オーディション / おばさんたち
No.8 やりとうない(カントリーサイドストーリー) / おばさんたち、千景&秋本
No.9 しっぽ / 淡路
No.10 小さな自信 / 秋本
No.11 それがウチらの歌(リプライズ) / おばさんたち

第二幕〜エンディング

No.12 プロードウェイに行こう / 人々、ジャン
No.13 どうなる?舞台(リプライズ) / マイケル通訳&マイケル、ジャン&ジャン通訳
No.14 運命の女神(リプライズ) / 千景
No.15 日曜ミュージカル〜それがウチらの歌(リプライズ) / おばさんたち、千景&秋本(&高畑)
No.16 プロードウェイに行こう(リプライズ) / おばさんたち、千景&秋本(&高畑)、マイケル&マイケル通訳
No.17 やりとうない(ダンス)
No.18 ジム・アレン / おばさんたち、千景&秋本(&高畑)、マイケル通訳&マイケル、スティーブ通訳&スティーブ
No.19 やりとうない(リプライズ) / おばさんたち、千景&秋本
No.20a モンペショック!(劇伴奏)
No.20b モンペショック! / 批評家1〜3、記者1〜3、人々、おばさんたち、千景&秋本(&高畑)、マイケル通訳&マイケル、スティーブ通訳
No.21 乙村へ(リプライズ) / おばさんたち
No.22 それがウチらの歌(フィナーレ) / おばさんたち、全員


オープニング

開演と同時に八人のおばさんがそれぞれモンペ姿で現れる。ウォーミングアップをしている人、腰を叩いている人、やっていることはバラバラだ。

No.1 それがウチらの歌

やがて安西が発声練習を始める。それを見て兼島が、遠藤が次々に発声練習を始める。
始めはバラバラに聞こえていたが、八人全員が始める頃にはなんとなくハーモニーに聞こえるような気になってくる。

おばさんたち 背の低い人 背の高い人 痩せてる人 太っている人
       瞳に映る姿 誰もがみんな違う
       ときには低く ときには高く 歌は響く バラバラに響く
       体中で叫ぶ声が 舞台に木霊する

       馴れない場所で 馴れない顔で 馴れない歌 馴れない声で
       光に照らされてる 誰もがみんな見てる
       できることしか できはしないが できないこと できないままに
       気張り過ぎと言われようが 気にせず歌え歌

        バラバラな声が バラバラに歌う バラバラな人が バラバラに踊る
        バラバラに鳴り響け バラバラに舞い踊れ
        ぎこちないけれど それが ウチらの歌

        バラバラに鳴り響け バラバラに舞い踊れ
        ぎこちないけれど それが ウチらの歌
        少しでもマシに なれば ウチらの歌

No.1 終わり

おばさんたちは横一直線に並ぶと同時に後ろを向き、一斉にお辞儀をする。まるで観客席がそこにあるかのように。
上手端に真那加が現れる。日記帳のようなノートを開き、読み上げる。

真那加  新国立劇場の舞台上、満場の拍手を受けているおばさんたち。一番左にいるのはうちのおかんや。その右が時森のおばちゃん、高山のおばちゃん、安西のおばちゃん、笹本のおばちゃん、兼島のおばちゃん、なっちゃんのおばちゃん(遠藤)、そして上条のおばちゃん。みんなウチの村のおばちゃんや。
 お客さんの中には本気で拍手してる人もおる。ブラボーなんて叫んでる人もおる。でも大方の人たちは、拍手しながら何で自分が拍手してるのか分かっていない。拍手なんてそんなもんや。隣が拍手したら自分も拍手する。そのうち拍手が蔓延する。拍手ってうつるんやね。欠伸と同じ。病気と同じ。そうや、こいつは拍手病や。
 拍手病にならないためにはどないすればええんやろ。うがい?手洗い?予防注射?あかんあかん、一番の予防法は、大きく深呼吸してみることや。そして自分に問いかける。「これってそんなにおもろいか?」って。ウチの結論は単純やった。(深呼吸する)「これこそ史上最悪のミュージカルや」

 

第一幕

No.2a 乙村へ(劇伴奏)

おばさんたちは堰を切ったように動き出し、イスのようなものを各自持ってくる。真那加がその中を下手側に歩いていく。

真那加  『(歩きながら)大阪から山をいくつも越えたところにウチの村がある。乙(きのと)村ゆうけったいな名前やけど、れっきとした村や。一日三本だけ来るバス停の隣には農協があって、その隣にあるのがAコープ。おかんはいつもそこで買い物をする。去年営業時間が夜8時まで延びた時には、「とうとうコンビニができた」と騒いでおった。
 『ウチの家は農家をやってる。隣の家もそのまた隣の家も同じ。みんな野菜つくっている。おとうもおかんも朝から晩まで畑仕事や。それでも最近は兄ちゃんが畑に出てるので少しはラクになったと言うてた。
 でも悩みの種は兄ちゃんや。25になるのにまだ彼女もいない。妹の私が言うのもなんやけど、そないかっこ悪いわけやないで。なんや、みっともないなぁと思うけど、そもそも村に若い女がいないやさかい、どうにもならへん。かくいうウチも高校出たら大阪に出ようと思ってる。みんなそうや。誰も乙村に残ろうなんて思ってる子はいない。だから嫁不足だと騒がれる。
 『収穫が終わった十月、毎年農協主催で会議が開かれる。「来るべき二十一世紀に向けて乙村の将来を検討する」なんてかっこつけたこと言うけど、何のことはない。「いかにして行き遅れの息子たちに奥さんを手当てしてやるか、親が真面目に考えてみる」、そういうことや。ウチはこの会議のことをこう呼んでる。「嫁来いサミット」。

No.2a 終わり(cut off)

真那加の台詞の間に、おばさんたちはイスのようなものを並べ、各自座り終わる。
真那加は舞台から一瞬消え、寄席にあるような演目をめくるもの(何て言うんでしたっけ?)を下手端に起き、一枚めくる。そこには「乙村公民館」と書いてある。
そして真那加は舞台から去る。

兼島  誰が考えたん?
吉村  うちの子なんよ。
兼島  浩ちゃん?
吉村  真那加。
兼島  なかなかええ名前やん、それにしよか。
遠藤  ええんちゃう?
高山  うん、直接的でええやん。
秋本の声  直接というかそのままですけどね。

全員無視する。
秋本がイスのようなものを持って現れる。おばさんたちの並びに座ろうとするが、ちょっと離れて座る。

秋本  すみません、遅くなりました。

全員無視する。

安西  これからこの会の名前は「嫁来いサミット」いうことでええ?

全員うなずく。

兼島  委員長、異議なし。
安西  次回から回覧板に「嫁来いサミット」って入れてもらうわ。秋本はんメモとっといて。
秋本  はい。
時森  名前はともかく!早よ本題に入ろや委員長。
安西  まあそんな焦らんと。
上条  まあ時さんとこは一番年くうてるから分からんでもないけどね。
時森  何やて?
上条  三十の大台越えてるの時さんとこだけやん。
時森  もういっぺん言うてみい。
上条  事実は事実やろ、弦太郎くん今年三十二、
時森  三十一!
上条  いっしょや四捨五入すれば。
秋本  どういう四捨五入ですか。
上条  あんたうるさいで。
秋本  すみません・・・。
時森  (秋本に)立っとき。

秋本は立たされ坊主のように立つ。

真那加  このおじさんは秋本さんいうて、去年ウチの村に越してきた。なんでも齢五十にして農業を志し、脱サラしたとか言うてるけど、リストラされたんやないかとウチは睨んでる。
安西  ほなそろそろ本題に入りましょか。
秋本  あの・・・
上条  何?
秋本  議事録取れないんで座ってもいいですか?
時森  ほんまに立つアホがどこにおるねん、このアホ。
秋本  すみません。

秋本は所在なげに再び座り、ノートを開く。

安西  まずは今年の実績から。今年めでたく結婚できたのは片山はんとこの剛君だけ。あとは去年と変わらず。
笹本  実績一組、寂しいなあ。
安西  (ポケットから紙切れを出して)村長はんから言づて預かっとるんよ。「来年はいよいよ二十一世紀。一層の花嫁獲得を推進し、乙村の反映を目指していただきたい」
兼島  何や人ごとみたいに。息子を持つ親の身にもなってみい。
高山  捨て犬拾ってくるんとはちゃうねんで。
遠藤  ほんまや。
上条  だいたいなんであんた(秋本)しか来てへんねん?
高山  両親全員参加いうことになっとるやろ。
秋本  私はまだこの村に来て間もない、言ってみれば新参者ですし、農業も初めて間もないから足手まといになってるし、会議にでも出て少しは役に立てと上条さんに言われたんで・・・
上条  で、ウチのおとうは?
秋本  さっき赤ちょうちんに行くの見ました。
上条  これや。男どもはすぐにこれや。嫁が来ない言うて騒いでいるくせに本気で心配してる奴はおらんのや。

No.2b 乙村へ

おばさん    ハァー そこ道行くお嬢さん 貴女だけが頼り お待ちしています
        嫁に来て乙村へ

おばさんたち 山を越え川を越え 嫁に来るならここへ
       大阪から遙か遠く乙村へ バスに揺られ
       バスは一日三度 四時になったら最後
       のどかな村 乙村へ さあ おいでよ

        朝も早よから起きて 畑に出かけ
        汗と泥にまみれて 一日終わり 腰も弱り
        水をやり草むしり 毎日同じ
        他にすることもない 飽きずに野菜

         トマト・ナスビに キャベツ・白菜
         ニラにニンニク 肥やしも臭い
         カボチャ・ピーマン 芋に大根 ここじゃ誰もが芋に大根

       山を越え川を越え 誰が来るのか?ここへ
       ひなびた村田舎暮らし乙村へ 不便だらけ
       テレビならNHK 他は砂嵐だけ 電車も無い 映画も無い
       芝居も無い 仕方ない 誰も嫁に来やしないさ

No.2b 終わり

秋本  農業と触れあえるというのはどうでしょう?私も東京でサラリーマンしてましたが農業をやってみたいと思いこの歳でこの村に引っ越してきましたし。
時森  でも使いものになってへんやないの。
秋本  ・・・。
時森  委員長のウチはええなあ、息子おらんから。
秋本  え、そうなんですか?
笹本  そうやで。委員長のウチには息子はおらん。
安西  何が言いたいん?
時森  しかも一人娘が女優ときてる。
安西  「卵」つけといて。「女優の卵」
笹本  この間銀河テレビ小説で店のウエイトレスやってたな。
遠藤  すごいやない。
上条  三秒しか写らへんかったから、見つけるの苦労したわ。
高山  あれ、由希ちゃんミュージカルやるんやなかった?
上条  やっぱりあれやろ、舞台だけじゃ食えんのとちゃう?
遠藤  へぇ、三秒。
上条  四秒やったっけ?
安西  そんなの関係あらへんやろ! 

別の場所に千景が劇団の座長と向かい合って立っている。
真那加が現れて、紙をめくる。「劇団ドリームスタジオ」と書いてある。

千景  (安西の台詞と重なるように)そんなの関係あらへんやろ!

千景たちの動きがストップする。

真那加  でもって話に出てきた女優の卵。安西さんちの由希子姉ちゃん。芸名は・・・何やった?

千景  (動きを止めたまま)雪村千景。

真那加  そうそう、大地真央みたいな女優になる言うて五年前に東京に上京。有名になってないから芸名忘れてもうたわ。

千景  (動きを止めたまま)あんたまでバカにする気?

真那加  (話を早々に切り上げようと)続きをどうぞ。(去る)

千景たちが再び動き出す。

座長  ・・・怖いなぁ、その関西弁やめてくれない?
千景  ・・・失礼しました。
座長  まあ、そういうわけだから、部屋引き払う時は連絡して。
千景  納得できません。
座長  納得しなよ。団員規約の第四条、当劇団に在籍中不祥事が生じた場合は、解雇処分とする。不倫なんて。有名になったならいざ知らず、無名のうちの不倫なんて致命的。しかも劇団内。
千景  恋愛は個人の自由です。劇団に迷惑かけましたか?マスコミだって来てないじゃないですか。
座長  来るわけないだろう、君みたいな無名女優のスキャンダルごときで。
千景  だったら。
座長  ポリシーの問題だよ。あんなうだつの上がらない男でも一応家庭があるんだから。
千景  彼は立派な演出家です。
座長  助手!演出助手。何が演出家だ。ただの雑用係じゃないか。
千景  ・・・いつもそうやってクビにしてきたんですか?
座長  ・・・何のことだ?
千景  私不思議だったんです。何で先輩たちが三十になったら揃って退団するのかって。残るのはテレビで役を取れた人か、家が金持ちか、あるいはあの噂が流れた人だけ。
座長  何が言いたい?
千景  あんたが卑怯者だってことだよ、このエロおやじ!
座長  ・・・
千景  何がドリームや、ドリームスタジオが聞いて呆れるわ。あんたに騙された私がアホやった。あんまりアホすぎて涙も出ぇへんわ。(涙ぐむ)
座長  ・・・これでもう話すこともないな。
千景  そうやね、あんたが聞きたいのはこんな言葉やないもんね。「先生、私先生に一生ついていきます」「先生、役をくださってありがとうございます」「先生、私先生のためなら何でもします」、何でもします、便利な言葉や。
座長  負け犬の遠吠えを聞く趣味はない。(去る)
千景  せいぜい腹上死しないよう気ぃつけるんやで!

No.3 舞台は夢

千景      幼い頃に観た 舞台に 憧れてた夢は夢?
        いつかきっと ここに立つと 想い馳せた舞台は夢

       この小さな場所では できないことはない
       すべて自由 世界中 何処でも 行けるという
       喜びも悲しみも 楽しさも辛(つら)さも
       夢求める人さえも そこにはすべてがある

        幕が上がって 光で満ち溢れて 色は鮮やか 華やかに輝いた舞台
        歌歌い 踊る人々 拍手の渦を舞う

       幕は降りる舞台に 夢は終わりみたい
       ただ虚ろな暗がりが 広がる舞台は夢

No.3 終わり

千景去る。舞台は再び乙村になっている。
真那加が紙をめくる。「再び乙村公民館」と書いてある。

時森  村祭りは?
吉村  アピール不足や。
高山  何か銅像でもつくろか?
上条  それで嫁が来ると思うん?
高山  ほな打つ手ないやないの。

真那加  あれから一ヶ月、五回目の嫁来いサミット。

笹本  どだいこんなへんぴな村に嫁を集めることなんて無理かも知れへんね。
時森  そない悠長なこと言うてる場合やないやろ。

そこに千景が現れる。

千景  ごめんください・・・(安西を見つけ)あ、やっぱりおかんここにいた。
遠藤  由希ちゃん。
安西  こんなところで何してるん?
千景  やめてきたんや、劇団。
安西  そんな話聞いとらんで。
遠藤  いつ?
千景  昨日。
笹本  銀河テレビ小説は?
千景  最終回まで収録済んでるから。まさかみんなして見てるん?
上条  そうや。ボケ防止にちょうどいいって。
遠藤  三秒ぐらいしか出ないから集中して見なあかんやろ。じー、あっ見つけた!、これがええんよ。
安西  由希子、そこ座り。

千景はその場に正座する。安西がそばに近づく。

安西  あんた劇団やめた言うのは本当やの?
千景  そうや、もうあんなアホ劇団見るのもいやや。
安西  アホはどっちやこのアホ。おとうの言うたこと忘れたんか?ミュージカルなんざ所詮女子供の観るもんや。一生の仕事になんかならん。それでもやりたい言うなら日本一になれって。日本一のミュージカルなら、きっと日本一の女子供が観るはずやって。
上条  日本一の女子供って何?
安西  とにかく、そういうことや。日本一になるまで帰らん言うたのはどこのどいつや。
千景  おかんに何が分かるの?三十にもなって劇団で肩身の狭い思いしてるのがどんなに辛いか分からんやろ。
兼島  ・・・委員長、女子供言うたね。
安西  そうやけど。
兼島  ミュージカルってそんなに女子供が観るもんなの?
千景  それは、まあお客さんの大半は女性だったけど。
兼島  ほなそれにしよ。
安西  何が?
兼島  鈍いなあ、ミュージカルやるんよ。
安西  どこで?
兼島  この村で。
上条  誰が?
兼島  ウチらが。

全員沈黙。

兼島以外のおばさん  無理無理。
千景  何の話?
兼島  今な、嫁来いサミット言うの開いとるんよ。この村に嫁を集めるためにどうすればいいか考えてたんやけど、これは名案やで。
千景  みんなでミュージカルやるの?
兼島  そうすれば若い子も見に来るやろ、この村のアピールもできるやろ、場合によったらこの村に住みたいと思う子も出てくるかも知れへん。
秋本  あの・・・名案だとは思うんですが、素人がやったところで笑い者になるのがオチですよ。
兼島  何事も最初は素人や、そうやろ秋本はん?
遠藤  それにこっちにはプロがついてるやない。ミュージカル女優雪村千景が。
上条  気に入った、その話乗ったで。
時森  他に無いなら仕方あらへん。
遠藤  何事も努力や。
安西  無理やって。
遠藤  ウチのおとうなんか先週の日曜日一人で物置つくったで。

No.4 日曜ミュージカル

おばさんたち  始めてみよう 毎週日曜 おやつには羊羹携えて行こう
        弾けてみよう 練習しよう そう日曜大工 無駄な小細工
        みたいに日曜ミュージカル

       馬子にも衣装 分厚い化粧 客席苦笑
千景                       プロなら致命傷
おばさんたち 可愛い子には 旅をさせな ウチらが可愛いか知らないが

       信号は青 さあ進み出そう
秋本                  黄色信号
おばさんたち                   は注意して進行
千景      赤い信号
秋本           阻む進行
おばさんたち            みんなして渡れば怖くない

        客には悪いが笑って許せ ここにはいないが可愛い娘
        迷ったときには迷わず進め お気軽 お手軽 ミュージカル

おばさんたち 信号は青 さあ進み出そう 黄色信号は注意して進行
秋本      (呆れた顔)
千景           (気絶もしそう)
二人                  (世も末の最後)
おばさんたち 赤い信号 阻む進行 みんなして  渡れば怖くない
秋本      (赤恥かこう)
千景            (もう諦めよう)
二人                   (そう渡れば怖くない)

おばさんたち 心温まる愉快な芝居 (心込めて)  
千景      (誰か止めて)
秋本              素人芝居じゃ絶対失敗
おばさんたち 花嫁来たがる素敵な芝居 (やろう) ミュージカル
千景      (誰も来ない)          ミュージカル
秋本                 花嫁怖がる ミュージカル

おばさんたち  客には悪いが笑って許せ ここにはいないが可愛い娘
二人       (誰か止めて) (もう諦めて)
おばさんたち  迷ったときには迷わず進め お気楽 極楽
二人       (なるようになれ)  (奈落)
おばさんたち  お気軽 お手軽       ミュージカル
二人              (転がる) ミュージカル

No.4 終わり

千景  でも、誰が作曲するの?
兼島  そんなの鼻歌でええやろ。
千景  あかん、ミュージカルはハーモニーが命や。
遠藤  中島先生やったらやってくれるんとちゃう?
吉村  そうやね、うちの真那加も先生はピアノが上手って言うてたし。
秋本  誰ですか?
吉村  学校の音楽の先生。
安西  ほな、明日さっそくお願いしよ。
千景  演出は?誰が演技をつけるの?
上条  なくてもええんとちゃう?
千景  そんなのあかん。演出は絶対必要や。
安西  中島先生は?先生やから人にもの教えるの得意やろ。
千景  授業と演出はちゃうって。
笹本  そんなこと言うたら誰もおらんやない。
千景  ・・・一人当てがあるんやけど。
笹本  誰?
千景  劇団で演出助手をしている人。
笹本  (小指を立てて)これ?
千景  ちゃうって。でも才能はあるわ。ウチが保証する。
上条  そんなすごい先生がこんな田舎に来てくれるん?
千景  たぶん。

千景は携帯電話を出して電話をかけようとする。

真那加  一つ言い忘れてた。ウチの村は圏外や。

千景  あかん、アンテナ立たへん。電話どこ?

千景は電話をかけに去る。
舞台袖に高畑が受話器を持って現れる。

高畑  由希ちゃん?今どこにいるの?・・・え?・・・そうか、帰ったのか・・・。由希ちゃんに言うことがあるんだ。ちゃんと別れた。今日区役所に行って。慰謝料と養育費も話がついたから。・・・え?明日?ご両親に?それどういうこと?・・・分かった、ちゃんと挨拶しに行くから。東京から何時間かかるの?うん、新大阪から・・分かる、はい、はい、え、バス無いの?一日三本?分かった。乙村役場前で降りるんだね。分かった。じゃあ明日。

高畑が去り、千景が現れる。
バスの音が聞こえる。全員上手袖に寄り、バスを待っている。
真那加が紙をめくる。「バス停前」と書いてある。
上条と遠藤が横断幕を広げる。「歓迎高畑先生」と書いてある。

千景  高畑さん、こっちやこっち!

スーツ姿の高畑が現れる。

千景  来てくれてありがとう。
兼島  さすが大先生はちゃうわ。ビシッとスーツで決めとる。
高畑  由希ちゃん、親戚多いんだね。
兼島  親戚ちゃうで。
高畑  違うんですか?
安西  高畑先生ですね、由希子がお世話になっております。
千景  母です。
高畑  お母様までわざわざ・・・初めまして、高畑と申します。この度は由希子さんに大変申し訳ないことをしましてお詫びのしようもありません(土下座する)
安西  何ですか?お詫びって?
高畑  あの・・・由希ちゃん?
千景  全然話してないから。
高畑  お父様は・・・
千景  何か勘違いしてない?
高畑  ご両親に合ってほしいって昨日・・・
安西  何の話かよう分からんわ。由希子、ちゃんと説明しいや。
千景  せやから、ウチと高畑さんが、その・・・まあそういう仲になって、それがばれて、劇団の座長からやめろと言われたんよ。
笹本  やっぱり(小指を立てて)これや。
安西  そんな話聞いとらんで。
千景  いきなり話すと思う?
吉村  しかし厳しいなあ、恋愛したら即クビなんて。
千景  あ、いや、たまたま奥さんいたからまずかったんよ。
上条  何やそれ不倫やないの。
高畑  いえ、不倫なんかじゃありません。昨日正式に離婚しました。
安西  そんなことはどうでもええです。
千景  良くないわ。ちゃんと離婚したのよ。
安西  あんた東京に行ってお芝居やるんやなかったんか?男にうつつを抜かして。
時森  家庭の事情は後回しや。秋本はん、説明して。
秋本  はい。高畑先生、実は今日来ていただいたのは仕事の依頼をするためなんです。
高畑  仕事?
秋本  はい、ミュージカルの演出を。
高畑  ・・・由希ちゃん?
千景  引き受けてくれるわね。
高畑  どこの劇団ですか?
上条  乙村歌劇団。
高畑  は?
上条  早い話がウチらや。
秋本  訳を話せば長くなりますが、この度村を代表してミュージカルを上演することになりまして、その演出を経験豊富な先生にお願いしたいんです。
高畑  演出なんて、経験ありません。
秋本  でも演出家なんじゃ・・・
高畑  助手です。演出助手。
笹本  いっしょやないの。
千景  経験はこの際どうでもいいの、私はあなたの才能を見込んでお願いしているんだから。

高畑は帰ろうとする。

千景  次のバスは四時間後よ。
高畑  無理だ、そんな話突然言われても。
千景  高畑さん、せっかくのチャンスじゃない。あなた演出家になりたいから助手やってるんでしょ?
高畑  無理だよ。
千景  他に頼れる人はいないのよ。
高畑  無理だ。
千景  できるって。
高畑  無理だ。
千景  こんなに頼んでるのに?
高畑  無理だ。 

No.5 運命の女神

千景     何もかもすべてが うまくいくわけじゃない
       諦めるだけならいいけど だけど
       何もせずにいれば ただ時は過ぎるだけ
       歩き出してみれば いつかは 何かが  

        やり遂げる誓い 信じていたい 夜明けには近い 信じてみたい
        運命の女神 叶えて願い 素敵な微笑み 浮かべて今に

       気紛れな女神に 捨てられた手紙でも
       新しい手紙また書けば いつしか

        運命の女神 叶える願い 優しい微笑み 投げ掛けたい筈

No.5 終わり

千景  きっとできるって。
高畑  ・・・無理だ。
上条  よくこんなんで離婚できたな・・・。
高畑  だから無理だってば!
上条  やっぱ離婚したいうのウソなんや。
千景  そうなん?
高畑  いえ、離婚の話は本当です。
上条  ほんまかいな。離婚するいうんは慰謝料だの養育費だの、甲斐性の無い男にはできへんことやで。あんたみたいな意気地なしにできることとちゃう。
高畑  本当です。
上条  ほなここらで男気あるとこビシッと見せたらどうやの?
高畑  そんな無茶苦茶な理屈・・・
時森  やるの?やらんの?やらんやったら四時間待ってスゴスゴ東京に帰り。そのかわり由希ちゃんはあんたみたいな根性無しに絶対やらへんで。
安西  家庭の事情に首つっこまんといて。
高畑  ・・・やります。
上条  それでこそ先生や。
千景  そや、ウチらは負け犬なんかやない。絶対後悔させてやる。

マイケル通訳の声 (千景の最後の台詞に合わせるように)・・・絶対後悔させてやる。

一同退場。
四人の男女が入ってくる。二人はスーツ姿の男、あとの二人は頭にヘッドマイクをした女で、いかにも通訳風。男のうち一人(マイケル)は若く、もう一人(ジャン)は恰幅のいい中年。
二人の女は、男たち二人の通訳としてマイケルとジャンに代わってしゃべる。マイケルとジャンはその言葉に併せて動く。通訳二人は通訳だけに喋りも冷静。
真那加が紙をめくる。「ニューヨーク、サージェント劇場事務所」と書いてある。

真那加  この会話は同時通訳でお届けします。

ジャン通訳  君ごときのために後悔するほど私は暇人ではない。
マイケル通訳  もう一度チャンスをください。
ジャン通訳  時間のムダだ。

マイケルは、勝手にファイルを開き、説明を始める。

マイケル通訳  このミュージカルのコンセプトを策定するにあたり、私なりにリサーチを行いました。
ジャン  (マイケルに)Get out.
マイケル通訳  (意に介さず)そのリサーチの結果がこのファイルです。
ジャン  (マイケルに)Get out!
マイケル通訳  (意に介さず)過去五年間にヒットした新作ミュージカルに・・・
ジャン  (自分の通訳に)Get out!

ジャンの通訳は出ていこうとする。

ジャン  (片言の日本語で)オマエジャナイ!チャントヤクシナサイ!
ジャン通訳  出て行きなさい。
マイケル通訳  (意に介さず)・・・共通した特徴があります。それは、テーマ性です。
ジャン通訳  それはさっきも聞いた。
マイケル通訳  そこで今回のコンセプトです。コンセプトは
ジャン通訳  放射能事故。
マイケル通訳  そうです。放射能事故による近隣地域への深刻な影響をショー形式でアピールすることで、観客に原発の恐ろしさを訴えかけ、二十一世紀のあるべきエネルギー像を考えさせます。物語は三部構成で、それぞれスリーマイル島、チェルノブイリ、東海村の事故の様子を歌とダンスで表現します。
ジャン通訳  却下。
マイケル通訳  八十年代ならいざ知らず、二十一世紀になろうとする今になって猫がどうなろうがオペラ座に変人が住んでようが美女が野獣になろうが、そんなのは観客の興味を引きません。重要なのはテーマ性、そして社会性なのです。社会にコミットできないミュージカルは二十一世紀に生き残ることはできません。

No.6 どうなる?舞台

(No.6-1)

マイケル通訳 夢だけじゃダメ
ジャン     No. No. No!
ジャン通訳   足りないお金
マイケル    Here we go!
マイケル通訳 良いテーマさえありゃ イケるウケる
ジャン     No, and no!
ジャン通訳  どうなる舞台?
マイケル    You don't know!
マイケル通訳  嘘はいらない
ジャン     No, and so!
マイケル通訳       そう
二人      新しい時代 何が来るのか?

マイケル通訳  社会写す鏡舞台でなければ    ダメだ
ジャン通訳                てんでダメだ
        殺しクスリ政治腐敗誰が見たいか?
マイケル通訳   嘘しか
        見せるものがなけりゃ誰も観に来ない
ジャン通訳                     こんなに 悩む
マイケル通訳                         悩む
        どうか誰か  教えて欲しい
ジャン通訳       神の声を  欲しい

マイケル通訳 どうなる?舞台
ジャン     What is now?
ジャン通訳   みんな知りたい
マイケル    We don't know!
ジャン通訳         もう
二人      新しい時代 誰もが分からない

ジャン通訳  臭い物に蓋をすれば匂わない    ものだ
マイケル通訳               変わり者だ
        美男美女の恋の話ではつまらない
ジャン通訳                   わけない
        理屈だけを捏ねた小賢しい話
マイケル通訳                が良い きっと
ジャン通訳                     きっと
        潰す我が身    イカレた舞台
マイケル通訳      みんな観たい   舞台

ジャン通訳  どうなる?舞台
マイケル    Oh my God!
マイケル通訳  みんな知りたい
ジャン     We don't know!
マイケル通訳        もう
二人      新しい時代 誰もが分からない
        どれでも変わらない 会議は進まない!

マイケル通訳  『このミュージカルの最大の見所は、第二部、チェルノブイリの原発事故にあります。ここではメルトダウン時の核分裂の様子をダンスで表現する予定です。こんなイメージです。

気がつくと舞台の後方に全身タイツの変形したような奇妙な衣装を付けた数人のダンサーが現れ、黙々と踊っている。人を嘗めているようなダンス。

ジャン通訳  『(ダンサーたちを見て)痙攣してるぞ。
マイケル通訳  『あれが核分裂ダンス。
ジャン通訳  『ダンスに見えない。
マイケル通訳  『一生懸命やってます。
ジャン通訳  『そういう問題じゃない。どこのダンサーだ?
マイケル通訳  『左からMIT、ボストン大学、ワシントン大学・・・
ジャン通訳  『学生集めてどうする。
マイケル通訳  『教授です。
ジャン通訳  『はぁ?
マイケル通訳  『全員量子物理学の博士号を持つ大学教授です。彼らの科学的知識が舞台にインテリジェントな雰囲気を醸し出すはず。
ジャン通訳  『君はどうかしている。
マイケル通訳  『キャッチコピーまで考えてあります。題して「ブロードウェイ史上もっとも量子物理学的知識に富んだミュージカル」、量子物理学とブロードウェイ、このミスマッチがマスコミに話題を提供するのです。
ジャン  『(ダンサーたちに向かって)Stop!

(No.6-2)

ダンサーたちは不満げに帰っていく。

No.6 終わり 

ジャン通訳  私は君に才能があると思ってプロデューサーに大抜擢したんだ。それが何だ。素人集めて痙攣させて何がミュージカルだ!これならゴミ捨て場で猫を踊らせた方がまだましだ。君は少し休んだ方がいい。
マイケル通訳  休む?
ジャン通訳  君のご両親のいる日本に里帰りしたらどうだね?
マイケル通訳  ・・・分かりました。日本に帰って新しいアイデアを見つけてきます。
ジャン通訳  戻ってこなくていいから。
マイケル通訳  それは里帰りではなくクビじゃないですか。
ジャン通訳  日本ではそう言うのか、知らなかった。
マイケル  Suck my Ass!
マイケル通訳  ・・・。
マイケル  (通訳に)ちゃんと訳せ。
マイケル通訳  私のお尻の穴にはめなさい。
ジャン通訳  そんな趣味はない。
マイケル  Son of a bitch!
マイケル通訳  売女の息子。
ジャン通訳  言いがかりはよせ。

マイケルは、ジャンにつかみかかる。

ジャン通訳  とっとと日本に帰りやがれこの田舎者。

ジャンは憤慨して去っていく。ジャンの通訳も後について去る。

マイケル  Fuck you!
マイケル通訳  あなたを犯しなさい。
マイケル  (通訳に)うるさい!

マイケルと通訳も去る。

7a

真那加が紙をめくる。「公民館オーディション会場」と書いてある。
机が運ばれ、高畑と秋本が座る。あたかもオーディション会場であるかのように。千景は机の横に立つ。

No.7 オーディション

おばさんたち 主役目指しオーディション 緊張するコンディション
       嘘ではないノンフィクション 何か飲もう 渇く喉
        自分らしさをアピールしなきゃ損 さあオーディション

高畑  『最初の方。
兼島  『一番、兼島幸子です。
高畑  『歳は?
兼島   『二十三。
高畑  『・・・本当は?
兼島   『・・・来年三十。
高畑  『本当は?
兼島   『三十八。
高畑  『三十八歳ね。
千景  『(こっそり)違うわ、四十五よ。

高畑  『次の方。
高山  『三番、高山良美です。
高畑  『歳は?
高山   『十万四十二歳。
高畑  『(無視して)次の方。
笹本  『四番、笹本理恵子。
高畑  『歳は?
笹本   『四十五歳。
高畑  『自己アピールを。
笹本   『水着に自信あり。

おばさんたち 冷や汗出るオーディション 心配な厚化粧
       インチキ無しノンフィクション 手に入れよう このオーディション

高畑  『次の方。
安西  『六番、安西孝江。
高畑  『お歳は?
安西   『・・・。
高畑  『何か自己アピールを。
安西   『・・・。
高畑  『何か言ってください。
安西  『あんたのこと認めたわけやあらへん。
高畑  『(咳払いして)次の方。

上条  『七番、上条弘子です。
高畑  『歳は?
上条   『五十。
高畑  『自己アピールを。
上条  『村で一番畑が広い。
高畑  『いや、あなた自身の。
上条  『何や、畑が広いいうんはアピールにならんの?
高畑  『ミュージカルと関係ないです。

おばさんたち 時は進むオーディション ドキドキするコンディション
       嘘ではないノンフィクション 手も足も 震えても
        野良仕事とは違うもの のらりくらりじゃダメだ もう
        主役は誰か?手にしようきっと さあオーディション

No.7 終わり 

高畑  (机を叩いて)オーディションにならない!
秋本  まあまあ。
上条  何怒ってんの?
高畑  皆さん、オーディションですよ。オーディション!実力で勝負して役を勝ち取るのがオーディションでしょうが。それを何ですか、歳ごまかしたり、畑の広さ自慢してみたり、こんなことでオーディションできるわけないじゃないですか!
安西  それを言うなら先生、
高畑  何ですか?
安西  ウチら何やるかも聞いてへん。役を勝ち取る前に、何の役があるのかも知らん。それでオーディションいうのも無理なんとちゃう?
千景  ・・・正論や。 

7b

高畑  演目は考えました。もうオーディションはしません。
千景  どういうこと?
高畑  秋本さんのアイデアです。
秋本  たぶんオーディションは難航するだろうと考えて、群衆劇にしたらどうだろうと考えたんですが。
時森  群衆劇・・・って何?
秋本  主役という主役はいません、皆さんが主役です。
高山  よく分からんわ。説明して。
高畑  タイトルは、カントリーサイドストーリーです。
時森  ・・・って何?
高畑  舞台はとある片田舎、隣り合う二つの村で派閥抗争が起きます。ジェット村とシャーク村の争いです。
安西  何やジェット村シャーク村って?それどこの国や?
高畑  日本です。
安西  どんな字書くねん?
高畑  カタカナですが・・・
高山  そらおかしいわ。ウチら日本人やで。日本人なら日本人らしく漢字で名前つけな。
高畑  しかし、これはウエストサイドストーリーを換骨奪胎したもので、そのパロディだからこそ面白いんですが・・・
吉村  おもろないで。
高山  理屈はどうでもええ。漢字や漢字。
秋本  それじゃあ飛行機村と鮫村ということでどうでしょう?
上条  飛行機村って何やの?
高畑  飛行機をつくる村です。
上条  そんなアホな話があるかい。なんでそんなものつくる必要があるん?
秋本  飛行機メーカーの下請けが集まる企業城下町ということでどうでしょう?
高畑  そうそう、トヨタ自動車に豊田市があるみたいに。
上条  まあええわ。ほな鮫村は?
高畑  鮫を取る漁村です。
兼島  何で争ってるん?
高畑  仲が悪いからです。
兼島  何で?
高畑  何でと言われても・・・
兼島  よう考えてみい。漁村と飛行機やで。喧嘩のしようもあらへんやろ。
秋本  ・・・これならどうですか?鮫村はもともと鮫の養殖で生計を立ててきた村です。ところが、最近飛行機村の工場から不法投棄された産業用廃棄物が海を汚染し、鮫の養殖にダメージを与えてしまった。怒った鮫村が飛行機村に宣戦布告。
兼島  何や、飛行機村は悪者かい。
秋本  いえ。飛行機村にも理由があります。飛行機メーカーからの無謀な要求を無理矢理飲まされ、やむを得ず不法投棄を繰り返しているのです。
遠藤  悪いのは飛行機メーカーなんやね。
秋本  それも違います。飛行機メーカーは長年規制に守られて経営してきたため、今の厳しい環境にうち勝つためには思い切ったリストラが必要なんです。すでに従業員も解雇しました。やむを得ず下請けにも厳しい要求をしてしまっているのです。
笹本  ・・・秋本はん頭ええなあ。
高山  カタカナ村より断然そっちの方がええで。
高畑  そうです、私が考えていたこともまさにその通りです。これは社会派ミュージカルなのです。
高山  あんたさっきウエストがどうのこうのって言うてたやない。

真那加が紙をめくる「公民館ミュージカル稽古場」と書いてある。
おばさんたちが二つのグループに分かれる。安西、遠藤、笹本、上条が飛行機村。兼島、吉村、高山、時森が鮫村。

No.8 やりとうない(カントリーサイドストーリー)

鮫村     鮫様育てる鮫村に 汚れた海では明日は無い
       ウチらは零細 家(うち)倒れ 最後にゃ野垂れ死ねと言うか?
飛行機村   閑古鳥鳴く飛行機村に 厳しいリストラ明日は無い
       工場閉鎖 共倒れ 最後の手段だ対決だ

両村     いざ今夜 やりとうない

秋本      探していた
千景       見つけた
二人       二人愛に
秋本      この争い
千景       引き裂き
二人       逢えない

両村     お先は真っ暗我が村に 奴等がいたんじゃ明日は無い
       (進め! 倒せ!       今夜!)
千景            (止(や)めて 今夜!)
秋本                   (今夜!)
両村     負けるな絶対 打ち倒せ 対決する 力の限り
              (絶対うち倒せ そう力の限り)
秋本     (止(と)めよう絶対     そう力の限り)

全員     嗚呼 今夜 やりとうない

二人      (探していた 見つけた 二人愛に)
鮫村       負けるな鮫村       女子供すら
飛行機村            勝つ飛行機村      少し貸しな面
二人      (この争い 引き裂き 逢えない)
鮫村              ボロ飛行機村           戦
飛行機村     倒すぞ鮫村        行って来るちょっくら

二人      (憎しみから 生まれた 二人愛に)
鮫村       海を見渡せば 鮫たち           死に絶え 亡くなる
飛行機村     海を見渡せば 鮫たちいなくて 安心危険も      なくなる
二人      (この争い 寄り添い 止めたい)
鮫村        空を見上げれば 飛行機なければ 五月蝿い迷惑     をかける
飛行機村      空を見上げれば 飛行機            大空を翔(かけ)る

千景     止めてもう
二人           どうしよう
鮫村      飛行機      飛行機 ゴミほこり
飛行機村    飛行機 我が誇り 飛行機

全員     嗚呼 今夜 やりとうない やりとうない!

No.8 終わり 

時森  ちょっと待った!
上条  時さん何やの、ええとこやったのに。
時森  この飛行機って何?
高畑  飛行機村から試験飛行している飛行機です。
時森  どこにあるん?
高畑  あの空です(と天を指さす)
時森  (高畑の指す方を見て)あれ、ネズミが出入りする穴やで。
高畑  想像力です。想像力。分かりますか?
遠藤  あれやろ、ゴジラとか見えへんけど俳優さんが見えてるフリして逃げ回ったりする。
高畑  そうです。飛行機は皆さんの心の中にあるんです。それがミュージカルです。
時森  また調子のええこと言いくさって。単に予算がないだけやろ。
高畑  いえ、ミュージカルとは想像力の産物なんです。何でもかんでも出せばいいってものじゃない。
兼島  聞いたで、東京でやったミュージカルでヘリコプターが降りてきたって。
時森  ほなミュージカルいうんはそういうものなんとちゃうん?
高畑  無理ですよ。
時森  何で?
高畑  予算がありません。
時森  やっぱ予算が無いだけやんか。
吉村  そういえば・・・
高山  どないしたん?
吉村  ウチら肝心なこと忘れとるわ。これ、どこでやるん?

全員沈黙。

高山  ここでやったらどうやの?
吉村  それ、あかんで。乙村に来てちょうだいってやるミュージカルを乙村でやったところで誰も来るわけないやろ。
遠藤  やるなら大阪とか東京やね。
秋本  とすると、劇場を予約しないと。電話帳で調べますか。
上条  そもそも、劇場っていくらするん?
千景  大きいところだと一日百万とか。
吉村  そんな金、誰が出すん?

再び沈黙。

安西  ・・・スポンサーが必要や。
千景  おかん、当てあるん?
安西  農協はどないやろ?そもそも嫁来いサミットの主催も農協やし。
上条  あかん、あそこの職員みんなケチや。ちょちくちょきんぎょ三個もらったら目ぇ向いて怒りよった。
高畑  地元の有力企業なんてないですか?
秋本  ここ、農村ですよ。この村でスポンサーになれるとしたら、農協ぐらいです。
高畑  秋本さん、農協に交渉できますか?
秋本  いいですけど・・・
上条  ちょちくちょきんぎょの恨みがある。ウチが行くわ。
秋本  恨みで交渉はできません。
上条  あんただけだと頼りないわ。
秋本  こう見えても会社では営業をしてました。(胸を張る)

一瞬全員が止まる。

上条  (止まったまま)そう威張ってたのはどこの誰や?

再び全員動き出す。

高山  なんや、門前払いか?
秋本  すみません、力不足でした。
上条  だから言うたやろ、あそこの職員みんなケチやって。
安西  スポンサー無しじゃ公演できへん。舞台装置だって必要や。照明も必要やし。
高畑  チラシの印刷も必要です。CM打つならさらに金が。チケット刷るにも金が。スタッフのお弁当代だってばかになりません。金、金、金、公演打つには金が必要です。
笹本  分かった。ウチがやってみる。
兼島  理恵ちゃん当てあるん?
笹本  こうなりゃ政治決着や。農協に圧力かけたる。
兼島  理恵ちゃんが?
笹本  ウチ、中学まで辛村(かのとむら)におったやろ。中学の同級生に県会議員がおるねん。行って話してくるわ。

笹本が走り出す。他の全員は去る。
偉そうな机に座る一人の男(淡路浜男)選挙用のポスターが張られている。キャッチフレーズは「地域に根ざしたクリーンな政治」。
真那加が紙をめくる。「県会議員淡路浜男事務所」と書いてある。

笹本  浜ちゃん久しぶりや。
淡路  何や理恵ちゃんやないか。久しぶりやなあ。どないしたん?
笹本  (机に手をつき)一刻を争うんや。本題入らせてもらうで。
淡路  なるほど、スポンサー。
笹本  飲み込み早くて助かるわ。
淡路  難しいわ、許して。
笹本  何で?中学以来の仲やろ。
淡路  ワシの派閥ごっつ小さいさかい、あまり目立つことするとまた睨まれる。
笹本  ウチ、いつも投票しとるで。
淡路  おおきに。でもな、数にはかなわんのや。堪忍して。
笹本  浜ちゃんだけが頼りなんや。
淡路  県会議員が農協に圧力かけるなんてできへんわ。また政治腐敗やって叩かれる。
笹本  こうしたらええんとちゃう?県会議員淡路浜男が地域活性化の一環として村おこしミュージカルを企画するんや。そして、農協に協力を呼びかける。農協かて大義名分が立ったら断れんやろ。
淡路  ワシが企画するん?
笹本  そしたら県にアピールする絶好の機会になるんとちゃう?まさに(ポスターを指して)地域に根ざした政治や。
淡路  ・・・そんなうまくいくかいな?
笹本  ダメ元や。
淡路  ・・・分かった。ちょっと電話するわ。
笹本  さっそく理事長に電話してくれるんか?
淡路  ちゃう。テレビ局や。
笹本  テレビ局?
淡路  どうせアピールするなら派手に宣伝しておいた方がええやろ。
笹本  あかん、いくら農協がスポンサーについてもテレビCMなんてやる金は出さんで。
淡路  ドキュメンタリーにするんや。
笹本  へ?
淡路  あんたらの練習風景を取材して、ドキュメンタリー番組にするんや。それをテレビで流す。CM打つよりよっぽど効果的やで。しかもタダや。
笹本  でもちょっと待って。そんなに簡単に取材来てくれるやろか?ド田舎やで。
淡路  心配無用。読切テレビで良ければワシあそこの編成局長に貸しがある。
笹本  ほんま?
淡路  あそこの局長がこの前女子高生買おうとして逮捕されそうになった時、ワシがもみ消したんや。嫌とは言わせんで。
笹本  ・・・浜ちゃん、それのどこが「クリーン」やねん?
淡路  処世術や。電話するさかい席はずしてくれへんか?
笹本  分かった。頼むわ。

No.9 しっぽ

笹本去る。

淡路     誰でもみなしっぽを持っている 見えないしっぽだけど それでも 
       誰かにすっとしっぽを掴まれりゃ 身動きとれなくなる

        しっぽを掴んでナンポ この世の中は
        嫉妬の渦巻く末法 神様そっぽ

       誰でもみなしっぽを掴もうと 世の中回っている

       痛みもありゃしっぽも切れるけど また生えるさ そのうち

        しっぽを見つけて闊歩 街繰り出そう
        しっぽが見つかりゃマッポ 誰もがそっぽ

       生きてりゃみなしっぽは生えてくる 見つからぬよう さあ隠せ
        世も末 急いで

No.9 終わり 

淡路は机とともに去り、そこは稽古場に戻っている。
真那加が紙を戻す。「公民館ミュージカル稽古場」
笹本が戻ってくると、おばさんたちは茶菓子片手にお茶を飲み、高畑は一人で唸っている。秋本と千景はいない。

高畑  ダメだ!こんなんじゃ集中できない!
高山  そう言わんで。うまいでカステラ。
笹本  どないしたん?
兼島  理恵ちゃんグッドタイミング。おやつの時間や。
時森  どうやった?
笹本  ばっちりや。来がてら農協に確認してきた。JAきのと、全面協力や。
時森  でかした!
上条  ほなさっそく劇場取らな。秋本はんは?
安西  由希子と歌の練習しとる。
笹本  劇場の心配はいらん。浜ちゃんに取ってもろた。
高山  ほんま?
笹本  大阪や。大阪の阪鉄劇場。
遠藤  首尾ええなあ。
笹本  まだ土産があるで。
遠藤  何?
笹本  テレビや。
遠藤  コマーシャル?
笹本  ちゃう、ドキュメンタリー番組や。近々読切テレビが取材に来る。
高山  ・・・冗談やろ?
笹本  淡路浜男をなめたらあかん。正式決定や。
遠藤  ・・・淡路浜男って何者なん?
吉村  何でもええ。まずはお茶で乾杯や。乾杯!
おばさんたち  乾杯!
高畑  いい加減にしてください!これじゃあ練習になりゃしない。
笹本  さっきから何いきり立ってるん?
高畑  怒りたくもなります。私の許可もなく勝手に休んだりして。
上条  十時と三時はおやつの時間、農家の常識やろ。
高畑  皆さん畑耕してるんじゃないんですよ、お芝居してるんですよ。
兼島  身に付いた習慣がそんなに変わるわけないやん。
高畑  休憩中止。演出家命令です!
兼島  ・・・うるさいなぁ。
笹本  ええんとちゃう?練習しよ。テレビ来るんや。ええとこ見せな。
兼島  しょうがないなぁ。

全員ボチボチ立ち始める。

高畑  飛行機村と鮫村が最初に対決する場面から始めます。並んでください。

全員一列に前を向いて並ぶ。一応飛行機村と鮫村に分かれている。
下手から時森、高山、吉村、兼島、安西、遠藤、笹本、上条の順。
そこに千景と秋本が帰ってくる。

千景  秋本さん、結構歌うまいね。(おばさんたちを見て)何してるん?
高畑  シーッ!稽古中です。
安西  高畑はん。
高畑  私語は禁止!
安西  これ、対決に見える?
上条  番号!
時森  一。
高山  二。
吉村  三。
兼島  四。
安西  五。
遠藤  六。
笹本  七。
上条  八。
安西  これ、対決やなくて、整列とちゃうん?
秋本  確かに。
高畑  そのへんは・・・うまく並んでください。
吉村  うまくってどうやるん?
遠藤  ちゃんと指示してや。
高畑  ・・・じゃあ、飛行機村と鮫村が向き合って。

おばさんたちは一直線のまま横を向く。飛行機村と鮫村が一応向き合った。

安西  ・・・ウチらジャンケンでも始めるん?
上条  ジェンカとちゃうか?
高畑  文句ばっかり言って、どうしろと言うんですか!
遠藤  ちゃんと指示してって言ってるやろ。
高畑  もっと対決しているように並んでください。
上条  それは指示ちゃう。要望や。
秋本  ちょっと思いつきなんですが・・・
上条  言うて。
秋本  時森さんと上条さん、三歩前に出てもらえます?高山さんと笹本さんは二歩。吉村さんと遠藤さんは一歩。

それぞれ言われたとおりにする。

秋本  それで、(ファイティングポーズをとる)こんなポーズしてもらえますか?

結局八の字になって敵味方向き合い、ファイティングポーズをとっている。
上条が前に出てきて、様子を見る。

上条  ええやん、対決してる感じがするで。
千景  そうね。
上条  こういう指示を待ってたんや。
高畑  秋本さん、演出は私です。余計な口出しはしないでください。
秋本  すみません。
兼島  謝ることないで。ちゃんと指示しない先生が悪い。
吉村  そうや、演出家なんやから指示するのは当然の仕事や。
高畑  分かりました。私は降ります。
千景  高畑さん・・・。
時森  一度引き受けたんや。ちゃんと最後まで演出家やり。
高畑  無理です。
時森  あんた演出家やろ。
高畑  助手だって言ってるでしょう!
時森  何が違うねん、由希ちゃん、この人東京で演出してたんやろ?
千景  うーん・・・経験はないんだけど。
吉村  演出の助手で経験無いわけない。
千景  ・・・みんな誤解してるわ。演出助手って稽古のスケジュール考えたり、演出家の横でメモとったり、演出家からの伝言を役者に伝えたりする人のことやから。

全員沈黙。

遠藤  それ、雑用とちゃうん?
千景  ・・・まあ、そう言えないこともないというか・・・。
高山  ・・・あかん、信じたウチらがアホやった。
遠藤  由希ちゃんが推薦するくらいやから、ごっつすごい先生かと思うてたわ。
高山  スケジュール管理・・・
吉村  メモ取り・・・
上条  伝言・・・
おばさんたち  それでどうやって演出すんねん!
高山  ほんまにできるんやろか?
吉村  なんだか自信なくなってきたわ。
秋本  もっと自信出していきましょうよ。
遠藤  秋本はん、気楽やなあ。
秋本  トマトをつくる方がよっぽど難しい。
上条  そうは言うてもなぁ・・・
秋本  上条さん、演出家抜きでやろうと言ってたじゃないですか。
上条  やっぱあかんわ、勝手が違いすぎる。
秋本  自信をなくしたらおしまいです。前向きに行きましょう。
時森  何を根拠に自信を持つねん?インチキ先生か?
秋本  根拠なんていりません。根拠は後からついてきます。私が営業マンだった頃、セールス講習会で先生に教えてもらった言葉があります。「根拠のない自信」。
上条  ・・・その先生もインチキとちゃうか? 

No.10 小さな自信

秋本      何か失敗した途端 うまくやれるのか不安
        独り呟く 自信ならある 自分で言って ありそうなふりして

       例えばトマト 育てるときも 最初は誰だって 実らないで枯れて
       だけど 種蒔きの後 小さな苗の 小さな緑の葉 つきゃ小さな自信

        巧い人と 比べちゃうと 惨めなもの だけど
        けどゆっくり 進めばいい 焦らずいこう

       緑の濃さも 深まる夏の トマトの白い花 咲いた或る日の朝
       いつか お日様空も 輝くトマト その夏実の一つ つきゃ立派な自信

        山登りも 最初一歩 小さいものだけど
        知らない間に こんな高い と驚いてる

おばさんたち  巧い人と 比べちゃうと 惨めなもの
秋本                        だけど
        けどゆっくり 進めばいい
全員                   自信を持って 

No.10 終わり 

上条  決めた、秋本はん演出や。
秋本  私ですか?
高畑  私はどうなるんですか?
兼島  あんたは助手や。 

10

場面が変わり、ホテルの一室。マイケルが荷物を持って現れる。
真那加が紙をめくる。「品川セントラルホテル八○二号室」と書いてある。
マイケルは荷物を置き、カーテンを開けて窓の外をながめ、それからベッドに腰掛ける。その間マイケルの声が聞こえる。

マイケルの声  親愛なるパパ、ママ。お元気ですか?僕はブロードウェイでプロデューサーになるべく日夜修行に励む毎日です。今度しばらく日本に滞在することになりました。上司のプロデューサーから日本のミュージカルをブロードウェイで上演したいという特命を受けたためです。日本で生まれ日本で育った僕ならきっと素晴らしいミュージカルを探してくるだろうと言われ、僕以外にはこんな仕事は任せられないとまで言われてしまいました。僕も上司の期待に沿えるよう素晴らしいミュージカルを発掘したいと思っています。そういう訳ですので、日本に滞在しますがしばらく横須賀には帰れそうにありません。僕もパパやママに会いたいですが、これも仕事のうちですので理解してください。当分はホテル住まいになると思います。落ち着いたらまた連絡します。それではお体に気を付けて。

マイケルがテレビのスイッチをつける。舞台の別の場所に乙村住民とレポーター、カメラマン等のスタッフが現れる。

レポーター  村を挙げてミュージカルをやろう、そんな願いがいよいよ実現しようとしています。ドキュメンタリー人生劇場、今日は兵庫県にある乙村から手作りミュージカルの模様をお伝えします。

おばさんたちがダンスの練習(音楽は無い)を行っている。淡路が現れている。

レポーター  今回の企画は、淡路浜男兵庫県会議員の発案によるものです。こんにちわ。
淡路  こんにちわ。
レポーター  今回の企画のいきさつをお聞かせください。
淡路  一つには乙村の活性化が挙げられます。乙村の人口はここ十数年急激な減少を迎えております。
レポーター  ここにその推移をまとめたフリップがあります(と、グラフの書かれているフリップを出す)しかし、どうしてまたミュージカルを?
淡路  全国各地で様々な地域活性化策が講じられておりますが、効果は薄いという話も聞いています。その原因は文化の欠如にあると私は考えております。文化水準の高い場所には必ず人々は戻ってきます。
レポーター  文化ですか・・・
淡路  文化とは空気のようなものです。無ければ死んでしまうが形は見えない。ですから皆さんに親しみやすい形で表現する必要があると考えたのです。ミュージカルは老若男女に親しみやすい。普段は農作業に勤しんでいる方々が歌い、踊ることで皆さんに何かをアピールできればと考えています。まあそう難しく考えず、彼女たちの熱気を肌に感じてください。
レポーター  はい、どうもありがとうございました。
淡路  こちらこそ。(去る)
レポーター  兵庫県会議員淡路浜男さんでした。続きまして演出を担当されています秋本雄一さんにお話を伺いたいと思います。初めまして。
秋本  初めまして。よろしくお願いします。
レポーター  秋本さんも普段は農作業をされているとか?
秋本  ええ、まあ、まだ見習い程度ですが。
レポーター  その前はなんと東京でサラリーマンをされていたんですよね?
秋本  はい。
レポーター  今回演出を引き受けられた理由は?
秋本  なりゆきです。
レポーター  過去に演出されていた経験があるとか?
秋本  あるわけないでしょう。サラリーマンですよ。
レポーター  どうですか、今回演出を引き受けられて?
秋本  なりゆきは恐ろしいです。
レポーター  舞台の出来の方はどうですか?
秋本  なりゆきに任せたいと思います。
レポーター  どうもありがとうございました。

高畑が秋本の横に現れる。

高畑  今回のミュージカルは、有名なウエストサイドストーリーをベースとし、より現代的な社会問題を浮き彫りとするストーリーになっています。
レポーター  今回のミュージカルの原案・脚本・演出助手を手がける高畑弘文さんです。
高畑  私は素人がミュージカルをやるということに甘えるつもりは一切ありません。どんなにコンセプトが素晴らしくても出来上がった舞台がダメならそれは企画倒れです。
レポーター  随分お厳しいですね。
高畑  今回の公演には強力なサポートをつけました。東京のミュージカル劇団に在籍していた女優雪村千景が出演し、舞台に花を添えます。
レポーター  ありがとうございました。それでは出演される方々のコメントをお聞きください。

以下、ダンス中にそれぞれ前を向き、一言ずつしゃべる。

安西  腰が痛いけどがんばります。
兼島  皆さん乙村に来てちょうだい。
遠藤  なっちゃん見てる?
吉村  浩一、真那加、おかあちゃんがんばるで。
笹本  ワンツー、ワンツー(とステップ踏む)
上条  根拠のない自信!
高山  あー、肩痛っ。
時森  助手、茶用意して。
高畑  はい(と去る)
レポーター  CMのあとは乙村ミュージカルのこれまでの軌跡をお送りします。

マイケルがテレビを消す。乙村の人々は動きを止める。
マイケルは胸ポケットからメモを取り出して、何やら書き始める。

No.11 それがウチらの歌(リプライズ)

マイケル  『十二月二十六日、放射能ミュージカルの欠陥が分かった。人間が描かれていなかったことだ。観客はテーマを必要としている。でもそれは小難しいテーマではなく、より身近なテーマであるべきだ。農村がミュージカルをやろうとしている。そのコンセプトたるや・・・素晴らしい!

乙村住民が再び動き始める。レポーターたちは去っている。

おばさんたち 馴れない場所で 馴れない顔で 馴れない歌 馴れない声で
       光に照らされてる 誰もがみんな見てる
       できることしか できはしないが できないこと できないままに
       気張り過ぎと言われようが 気にせず歌え歌

        バラバラな声が バラバラに歌う バラバラな人が バラバラに踊る
        バラバラに鳴り響け バラバラに舞い踊れ
        ぎこちないけれど それが ウチらの歌

        バラバラに鳴り響け バラバラに舞い踊れ
        ぎこちないけれど それが ウチらの歌
        少しでもマシに なれば ウチらの歌

マイケルの声  『追伸、日本に来て早々、素晴らしいミュージカルを見つけました。詳しくはまた今度。

No.11 終わり 

真那加が紙をめくる。「休憩」と書いてある。
(一幕終了)

第二幕

11

ニューヨーク。人々が現れる。

No.12 ブロードウェイに行こう

人々     行こう さあ ブロードウェイ 魅惑の街へ
       見てよ あの上 煌めくネオン
       迷うほど プロードウェイ 芝居溢れて
       誰もが夢を叶える街へ

       行こう さあ ブロードウェイ みな華やいで
       聴こう あの声 奏でる和音
       迷うほど ブロードウェイ 人は溢れて
       誰もが心惑わす街へ

        開演のベル鳴る 心も高鳴る 誰もが夢叶う ブロードウェイ

真那加が現れて紙をめくる。「ニューヨークサージェント劇場事務所」と書いてある。
ジャン・ドゥ・ボワールと、ジャンよりさらに恰幅のいいカール・ヘックマンが現れる。横には例によって通訳がつく。ジャンが歌うのに合わせて通訳が訳す。
人々は去る。

ジャン    Exciting city, Broadway.
ジャン通訳  『刺激的な街ブロードウェイ。
ジャン     All of your dream come true, now.
ジャン通訳  『すべての夢がかなう。
ジャン     Attractive city, Broadway.
ジャン通訳  『魅力的な街ブロードウェイ。
ジャン     Hard to sing, get out!
ジャン通訳  『歌いにくいったらありゃしない。
ジャン  『オマエノコトダ。

No.12 終わり 

カール通訳  企画書は読ませてもらったよ。
ジャン通訳  私が直々に練りました。準備は万全です。あのマイケルという若造が考えたミュージカル、あれは最悪でした。コンセプトだかコンセントだか知らないが能書きばかりで中身がない。観客はブロードウェイに何を求めているか、何一つ分かっちゃいない。ブロードウェイに求められているのは華やかさ、一夜の夢です。
カール通訳  君の言いたいことは分かるよ。コンセプトだけではミュージカルはできないということだろう。
ジャン通訳  そうです。その点私の考えた企画は万全です。歌ありダンスあり、そして華やかなフィナーレ。目に浮かぶようだ。ストーリーも単純。まさにシンプルイズザベストです。休暇中の海兵隊員がニューヨークで花売りの娘に出会います。彼は娘に一目惚れする。素晴らしい恋の始まり。
カール通訳  ありきたりだ。
ジャン通訳  偉大なるマンネリと呼んでください。 

No.13 どうなる?舞台(リプライズ)

(No.13-1)

ジャン通訳  夢こそ舞台
カール     No. No. No!
カール通訳  夢ならうんざり
ジャン     Here we go!
カール通訳  良い見せ場さえありゃ イケるウケる
カール     No, and no!
カール通訳  どうなる舞台?
ジャン     You don't know!
ジャン通訳  素敵がいっぱい
カール     No, and so!
ジャン通訳        そう
二人      新しい時代 何が来るのか?

ジャン通訳   理屈抜きで見せる舞台でなければ    ダメだ
カール通訳                   てんでダメだ
        金も掛かる手間も掛かる誰が払うか?
ジャン通訳                     どうなるか?
        甘い夢がなけりゃ誰も観に来ない
カール通訳                   こんなに 悩む
ジャン通訳                        悩む
         どうか誰か  教えて欲しい
カール通訳        神の声を  欲しい

カール通訳  どうなる?舞台
ジャン     Oh my God!
ジャン通訳  みんな知りたい
カール     We don't know!
カール通訳         もう
二人      新しい時代 誰もが分からない
        どれでも変わらない 会議は進まない!

ジャン通訳  『このミュージカルの最大の見所は、第二幕、二人の出会いのシーンにあります。ここでは二人の燃え上がる愛の様子をダンスで表現する予定です。こんなイメージです。

気がつくと舞台の後方に、海兵隊員と花売りの娘が現れ、ダンスをする。

カール通訳  『今時ニューヨークのどこに花売りがいる?
ジャン通訳  『古き良きメルヘンです。
カール通訳  『海兵隊員が花売りの娘と出会う。それから?
ジャン通訳  『華やかなラブロマンス。
カール通訳  『セックスはするのか?
ジャン通訳  『・・・それはするかも知れませんが、そんなのはカットです。
カール通訳  『するんだな。
ジャン通訳  『・・・します、いずれはします。でもカットです。
カール通訳  『エイズは?
ジャン通訳  『はぁ?
カール通訳  『その女はエイズに感染していないのか?
ジャン通訳  『さあ、そこまでは・・・
カール通訳  『主人公は確認しないのか?
ジャン通訳  『一目惚れですから。
カール通訳  『いいかよく考えて見ろ。仮にもアメリカを背負って立つ海兵隊員がエイズかどうかも分からない女に恋をする。そんなリスキーなことをすると思うか?
ジャン通訳  『エイズなんてミュージカルと何の関係もない。
カール  『(ダンサーたちに向かって)Stop!

(No.13-2)

ダンサーたち退場。

No.13 終わり 

カール通訳  観客はバカじゃない。そういう社会性が求められているんだよ。よし、それではこうしよう。登場人物全員がHIVに感染しているかどうか明らかにし、物語にエイズ問題を組み込め。
ジャン通訳  お言葉ですが社長、そんなことしたら小難しいミュージカルになります。そんなものは誰も見たがらない!
カール通訳  観客は?
ジャン通訳  ボチボチの入りで・・・
カール通訳  五百人の劇場に七十人しか入らなくて何がボチボチだ!
ジャン通訳  きっと初日だからです。
カール通訳  新聞の批評は?
ジャン通訳  ・・・まあまあの評価です。
カール通訳  読んでやろう(新聞を取り出して)「カビが生えそうな古くさい舞台。ブロードウェイに来てもサージェント劇場にだけは近寄らないことをお薦めする。観ているこちらまでカビが生えそうだ」これがまあまあの評価か?
ジャン通訳  ・・・きっと初日だからです。
カール通訳  今日限りでクローズしろ。君もプロデューサーなんかやめて切符のもぎりでもしていたまえ。
ジャン通訳  私がいなくて誰がプロデュースするんですか。
カール通訳  後任は用意した。入りたまえ。

白いスーツに身を固めたスティーブ・ホワイトが通訳とともに現れる。

カール通訳  君の後任のスティーブ君だ。
スティーブ通訳  よろしく。
カール通訳  君ならこのカビミュージカルをどう料理する?
スティーブ通訳  料理などしません。即刻捨てます。カビが生えた料理を食べさせるほど私はバカじゃない。
カール通訳  正論だ。君のポリシーをこのカビ臭い男に聞かせてやれ。
スティーブ通訳  一つ、楽しませるだけのショーなら大劇場には叶わない。一つ、観客はテーマを求めている。一つ、観客は常に新しいものを求めている。
ジャン通訳  そんなのあの若造と変わりゃしない。
スティーブ通訳  呼び戻しましょう。
ジャン通訳  正気か?あの男は大学教授を痙攣させてこれがミュージカルだとほざいた奴だぞ。
スティーブ通訳  放射能汚染を取り上げた。立派なテーマだ。
ジャン通訳  バカかあんた。
カール通訳  バカはどっちだ。とっとと窓口に行って切符のもぎり方でも勉強しろ。
ジャン  Fuck off!
ジャン通訳  揃いも揃ってキチガイだらけだ。

12

ジャンと通訳は去る。
スティーブは携帯電話を出して電話をかける。
マイケルが現れる。携帯電話を持っている。

スティーブ通訳  もしもし、ロズマン君か?サージェント劇場プロデューサー、スティーブ・ホワイトだ。
マイケル通訳  ホワイト?ボワールさんじゃ・・・
スティーブ通訳  彼は降ろされた。君の放射能ミュージカル、私は大変評価しているよ。
マイケル通訳  本当ですか?ありがとうございます。
スティーブ通訳  日本で新しいミュージカルのアイデアは浮かんだか?アイデアがあれば、すぐにでもニューヨークに戻って欲しい。
マイケル通訳  アイデアですか・・・
スティーブ通訳  無いか。そうか・・・ちょっと買いかぶりすぎたかも知れない。
マイケル通訳  あ、いえ・・・日本で社会性に富んだミュージカルを見つけました。
スティーブ通訳  どんな?
マイケル通訳  農村の復興をテーマにしています。農協をご存じですか?
スティーブ  ノウキョウ?
マイケル通訳  農業協同組合。地域に根ざし、農家とともに歩んでいる協同組合組織です。そこがスポンサーについています。企画したのは地元の議員です。
スティーブ通訳  出所はしっかりしているんだな。出来はどうだ?
マイケル通訳  え?
スティーブ通訳  君もその舞台を観たんだろう?
マイケル通訳  ええ・・・まあ・・・。
スティーブ通訳  まさか観もせずにデタラメな話をしているわけじゃないだろうな。
マイケル  (傍白)チャンスだ。これはチャンスなんだ。
マイケル通訳  観ました。朴訥としていますが、そこが目新しく、心温まる素晴らしい出来でした。
スティーブ通訳  よし、君を信用しよう。すぐにそのノウキョウとかいうエージェントと出演交渉してくれ。
マイケル通訳  今すぐですか?
スティーブ通訳  劇場を空けるわけにはいかない。三ヶ月後には舞台に立ってもらうからそのつもりで。(電話を切り、カールたちと去る)
マイケル  ・・・本気か?

乙村住民たちが現れる。
真那加が紙をめくる。「公民館ミュージカル稽古場」と書いてある。

マイケル  というわけです。

真那加  翌年の2月、けったいな外人が来おった。

兼島  なんか変な外人来とるで。
マイケル  怪しい者ではありません。私、ニューヨークのサージェント劇場でプロデューサーをしているロズマンと申します。
兼島  ウソや。なんで日本語しゃべれるねん?
マイケル  ハイスクールまで横須賀で生まれ育ちました。単刀直入に言いましょう。ブロードウェイの舞台に立ちませんか?
おばさんたち  ・・・は?
マイケル  テレビ拝見いたしました。あなたたちの純真さに感激しました。この村の発展を考えてミュージカルに夢を託す。素晴らしいじゃないですか。こんなこと、プロには出来ません。
兼島  ・・・決まりや。あんた詐欺師やろ。ブロードウェイだの何だのとうまいこと言って、参加費せしめようって魂胆や。
マイケル  違います。本当にスカウトしているんです。
兼島  あんたがほんまにプロデューサーやという証拠はあんの?
マイケル  ・・・これはどうですか。以前私が手がけようとしていたミュージカルのチラシです。(と一枚のチラシを取り出す)ここの裏に名前と顔写真が入っている。
秋本  (チラシを見て)なんですか、「メルトダウンGoGoGo!」って?
マイケル  放射能汚染の惨状を訴えるミュージカルです。信じていただけました?
兼島  ほなほんまにブロードウェイから来はったんか。
秋本  しかし、またなんだって我々に・・・
マイケル  実は、その舞台でちょっとしたトラブルがあって、今は休職中の身です。
兼島  なんや、やっぱり偽物やないか。
マイケル  いえ、それが先日ニューヨークから電話があり、日本の素晴らしいミュージカルを持ってくるなら戻ってこいと言われました。アメリカ人ウソ付かない。
秋本  しかし、急にブロードウェイに来ないかと言われても・・・
マイケル  用意はできています。あとは皆さんの決断しだいです。
秋本  まだ完成してもいないんですよ。
マイケル  あなたたちなら出来る。
秋本  素人が歌って踊るんですよ?
マイケル  私も上司に言った以上、後には引き下がれません。
上条  海外旅行と思えばええんとちゃう?旅費は面倒みてくれるんやろ?
マイケル  もちろんです。
上条  なら決まりやないか。ウチ、一度アメリカ行ってみたかったんや。
遠藤  ウチも。
秋本  皆さん、頭冷やしましょうよ。観光じゃないんですよ。
時森  乙村にとってこれ以上のアピールはないで。
高山  「ブロードウェイに行った村、乙村」ええアピールや。
笹本  浜ちゃんもきっと喜ぶわ。
秋本  (千景に)安西さん、なんとか言ってください。
千景  ・・・ウチも行きたい。
秋本  あなたまでどうしちゃったんですか?
千景  ブロードウェイに行ったら復讐できる。
秋本  復讐? 

No.14 運命の女神(リプライズ)

千景     夢を追い続けた 辛い日々も過ごした
       そして夢は夢と嘆いた だけど

       何もかもすべてが うまくいくわけじゃない
       諦めるだけなら いいけど だけど
       何もせずにいれば ただ時は過ぎるだけ
       歩き出してみれば いつかは 何かが  

        やり遂げる誓い 信じていたい 夜明けには近い 信じてみたい
        運命の女神 叶えて願い 素敵な微笑み 浮かべて今に

遠藤  『由希ちゃん、目マジやで。
千景  『ブロードウェイの舞台に立って、あいつら見返してやるんや。ロズマンさん、契約書貸して。
マイケル  『その気になってもらえましたか?
安西  『由希子、勝手な真似せんといて。
千景  『おかんは黙っといて。これはウチの問題や。
安西  『あんたの問題かてウチらもいっしょに行かなならんのや。
千景  『おとうの言ったとおりや。どうせミュージカルやるならてっぺん目指さなあかん。目指せブロードウェイや。

No.14 終わり 

13

真那加  それから一ヶ月、おかんたちは家事も忘れて稽古した。

No.15 日曜ミュージカル〜それがウチらの歌(リプライズ)

おばさんたち 馬子にも衣装 分厚い化粧 客席苦笑 プロじゃ致命傷
       可愛い子には 旅をさせな ウチらが可愛いか知らないが

       信号は青 さあ進み出そう 黄色信号は注意して進行
       赤い信号 阻む進行 みんなして渡れば怖くない

淡路浜男が現れる。

淡路  『ご通行中の皆様、自由民主保守公明党の淡路浜男でございます。あの乙村ミュージカルでおなじみの淡路浜男でございます。次の県会議員選挙では、是非ともこの淡路浜男に清き一票をくださいますようお願い申し上げます。

淡路が一瞬だけ後ろを振り向く。何やら尻尾らしきものが見えていたような気もする。

真那加  『(メモを取り出して)「稽古が忙しいので、夕飯は冷蔵庫の中にある(冷蔵庫を開けるフリ)もの使って何かつくって。」なんや、手抜きかい「私の分もよろしく。母より」何やねん。

おばさんたち  客には悪いが笑って許せ ここにはいないが可愛い娘
        迷ったときには迷わず進め お気軽 お手軽 ミュージカル

真那加  『そしてとうとう本番の日が来た。

おばさんたち  『(スクラム組んで)乙村、ファイトオーファイトオーファイトオー!

真那加が紙をめくる。「大阪阪鉄劇場」と書いてある。
照明が元に戻ると、舞台の後方に観客席らしきものが見えている。

おばさんたち 馴れない場所で 馴れない顔で 馴れない歌 馴れない声で
       光に照らされてる 誰もがみんな見てる
       できることしか できはしないが できないこと できないままに
       気張り過ぎと言われようが 気にせず歌え歌

おばさんたちは横一直線に並ぶと同時に後ろを向き、一斉にお辞儀をする。まるで観客席がそこにあるかのように。

真那加  『ウチはおとうと兄ちゃんとばあちゃんと死んだじいちゃんの遺影を持って席に座っていた。(と、おじいさんの遺影を出す)阪鉄劇場いうんは広いとこで、千人ぐらい入りそうやった。あそこの二階席で寝そべったんは、ウチが最初で最後やと思う。

おばさんたちはゆっくり去る。

真那加  『その日の観客動員数は劇場始まって以来やった。八十七人。その八割がウチの村の人。「かあちゃんがんばれ」という横断幕も見えた。残り二割はテレビを見ておもしろ半分で観に来た人や。そのうち最後まで起きていたのは三人もいなかった。

No.15 終わり 

マイケルが現れ、電話をかける。スティーブと二人の通訳が現れる。

マイケル通訳  もしもし、ホワイトさんですか?ロズマンです。
スティーブ通訳  ああ、君か。話は進んだか?
マイケル通訳  それが、ちょっとした手違いがあって、ブロードウェイに連れていくことはできなくなりそうなので・・・
スティーブ通訳  何だ、交渉に失敗したのか?
マイケル通訳  いえ、交渉は成立しました。
スティーブ通訳  舞台はオープンしたのか?
マイケル通訳  今日上演しました。
スティーブ通訳  客ばどうだ?
マイケル通訳  それがさっぱりで・・・
スティーブ通訳  出来はどうだったんだ?
マイケル通訳  それもさっぱりで・・・
スティーブ通訳  心温まる素晴らしい舞台だと言ってたな。
マイケル通訳  それもさっぱりで・・・
スティーブ通訳  君の目が狂っていたということか?
マイケル通訳  いえ、その・・・
スティーブ通訳  じゃあ何だ?
マイケル通訳  あんな舞台、今まで見たことありません。
スティーブ通訳  それならプロモーションが失敗したんだろう。よし、ブロードウェイに連れてこい。
マイケル通訳  本気ですか?
スティーブ通訳  君の本心は分かってるぞ。交渉に失敗したんだな。私も新人時代はそうだった。ギャラが折り合わないなどと言おうものなら上司に怒られる。それで客の入りがどうしたの出来がどうだったのとつまらないウソをついたものだ。
マイケル通訳  中止していただけませんか?
スティーブ通訳  そういうお願いもしたものだ。しかしだロズマン君、私はチラシもチケットも出来ているとその上司に聞いて、ウソはあきらめたよ。
マイケル通訳  出来ているんですか?
スティーブ通訳  宣伝は早いに越したことないんだよ。
マイケル通訳  ・・・分かりました。連れていきます。
スティーブ通訳  ウソなどつかずにしっかり交渉してくれよ。

スティーブは電話を切り、二人の通訳といっしょに去る。
おばさんたちか現れ、口々に「お疲れさま」だの「良かったね」だのと言い、手を打ち合わせたりしている。

マイケル  皆さんお疲れさまでした。
兼島  何や外人さん来とったんか?
高山  ウチらのダンス、どないやった?
マイケル  ・・・あんなダンス見たことありません。
遠藤  お客さんはどないやった?
笹本  何せ緊張してて客何人いたかも覚えてへんから。
マイケル  ・・・水を打ったように静かでした。
笹本  ・・・それほめてるん?
マイケル  ・・・ええ、皆さん感動していたようですよ。
時森  ほな大成功やな。良かったな、由希ちゃん。
千景  ・・・ええ、まあ・・・。
時森  何やの由希ちゃん、浮かん顔して?
千景  別に。うん良かった良かった。
上条  次はブロードウェイやな。ほんま行くんよね?
マイケル  ええ、行きます。行きますとも。
安西  ほな、今日はパーっと打ち上げでもしよか。
兼島  ウチも今それ言おうと思ってたんよ。
遠藤  ほな皆さん、パーっと行きましょ。パーッと。

おばさんたちは去る。秋本、高畑、千景、マイケルが残る。

千景  (おもむろにメガネを取り出してかける)で、本当のところどうやったん?
秋本  安西さん、客席見なかったんですか?
千景  ウチ目むちゃ悪いんよ。普段はコンタクトやけど、舞台出る時は外して出るから客席はいつも真っ暗闇や。
高畑  ロズマンさん、一度は乗り気の返事をしましたが、やっぱりちょっと・・・
マイケル  恥をかくならどこでかいても同じ。そうでしょう?
千景  お客さんどうだったの?
秋本  客席がいやに静かだと思いませんでした?
千景  気にはなったけど、シリアス物だから・・・
高畑  一応ミュージカルコメディなんだけど・・・
千景  え、これコメディだったん?
高畑  ダメだ・・・。
マイケル  もう後戻りはできません。日本人なら玉砕してきましょう。

14

四人から離れた場所に上条がスチュワーデスの帽子を被って現れる。

No.16 ブロードウェイに行こう(リプライズ)

おばさん以外 行こう さあ ブロードウェイ 魅惑の街へ
おばさんたち 費用なら 無い 魅惑の旅へ
       迷うこと 無い さあ いざ進め
全員     誰もが夢を叶える街へ

上条  『アテンションプリーズ、関西空港発ニューヨーク行きは間もなく出発です。ご搭乗のお客様、黄色い線の内側までお下がりください。

遠藤と吉村が黄色いビニールテープを引っ張って現れる。その向こうにいかにも貧相な飛行機の絵を持った兼島と高山が現れる。
真那加が紙をめくる。「関西新空港」と書いてある。

上条  『お客様、機内はモンペ禁止です。
兼島  『何言うとる。これはウチらのユニフォームや。

上条  『次は、ニューヨーク、ニューヨーク、終点です。どなた様もお忘れ物落とし物の無いよう今一度ご確認ください。

真那加が紙をめくる。「ケネディ国際空港」と書いてある。
スティーブが現れる。

スティーブ  『Mr. Roseman? Well come back to New York. I'm White.
マイケル  『How do you do?皆さんこちらがプロデューサーのホワイトです。
おばさんたち  『ハウドゥユードゥ。
スティーブ  『Excuse me? Who are you?
時森  『ウチ日本語しか分からへんで。
スティーブ  『ニホンゴ?オーイエス、ノープロブレム。ヘイ。

No.16 終わり 

スティーブとマイケルの通訳が現れる。

スティーブ通訳  彼女たちが訳してくれる。
時森  おおきに。
スティーブ通訳  俳優はどこにいる?
マイケル通訳  それは・・・
兼島  ウチらや。ミーミーミー。
スティーブ通訳  あなたたちが?・・・ロズマン君、ちょっと。

スティーブはロズマンを連れて二人で内緒話をする。

スティーブ通訳  おばさんじゃないか。
マイケル通訳  そうです。
スティーブ通訳  聞いてないぞ。
マイケル通訳  言いませんでした。
兼島  何コソコソ話してんねん?
スティーブ通訳  ・・・オーケー。それではさっそく劇場に行きましょう。
遠藤  ちょい待ち。ホテルは?
スティーブ通訳  ホテル?ああそうでした。それではこうしましょう。まずはホテルに行き、二時間後に劇場に来てください。劇場までの案内はロズマン君、頼んだよ。
マイケル通訳  分かりました。
スティーブ通訳  それでは参りましょう。
吉村  ほんま、アメリカ人は気きかへんなあ。

マイケル、スティーブたちを残して去っていく。

スティーブ通訳  ホワイト君。本当に大丈夫なのか?
マイケル通訳  その目で確かめてください。
スティーブ通訳  分かった。じゃあ劇場には稽古着に着替えて来るよう言ってくれ。
マイケル通訳  何するんですか?
スティーブ通訳  踊ってもらうに決まってるだろう。
マイケル通訳  すぐですか?
スティーブ通訳  何のためにニューヨークまで連れてきたんだ。
スティーブ  ウェルカム・トゥ・ザ・サージェントシアター!

おばさんたちが再び現れる。格好はモンペ姿のまま。
真那加が紙をめくる。「サージェント劇場」と書いてある。

スティーブ通訳  ・・・稽古着と言わなかったか?
兼島  ウチらの稽古着はこれや。悪い?
遠藤  あれとちゃう?レオタードとか着てほしかったんとちゃう?
マイケル通訳  結構です。
スティーブ通訳  しかし、いくら何でもその格好は・・・
上条  おしゃれしろ言うん?
スティーブ通訳  そういうわけではないですが・・・
吉村  ウチちゃんとおしゃれしてきたで。
上条  いつもと変わらんやん。
吉村  モンペ、リバーシブルやねん。
上条  どこで買うたん?
吉村  Aコープ。
遠藤  公ちゃんそれ全然分からんわ。
スティーブ通訳  (咳払い)さっそくですが、何か一曲踊ってもらえませんか?
マイケル通訳  いや、あの・・・まだ来たばかりですし・・・
スティーブ通訳  来たばかりだから何だ?
秋本  あ、そうそう時差ボケがひどくて。
スティーブ通訳  一曲だけじゃないか。
マイケル通訳  そうなんですが・・・
秋本  宗教上の理由。
マイケル通訳  そうです。宗教上の理由で今日は踊るわけにはいかないんです。
スティーブ通訳  ふざけるな!そんな宗教がどこにある!
安西  秋本はん、何言うてんの?踊ればええやん。
千景  せっかく見てくれる言うんやから。
スティーブ通訳  彼女たちもああ言ってる。踊ってもらえ。
マイケル通訳  ・・・分かりました。音楽! 

No.17 やりとうない(ダンス)

おばさんたちが最初のステップを踏んだところで動きが止まる。 音楽はいきなりエンディングになる。

No.17 終わり

スティーブ通訳  ・・・何だったんだ今のは?
マイケル通訳  世の中には知らない方がいいこともあるということです。
スティーブ通訳  心温まるミュージカルは?
マイケル通訳  なりませんでした?
スティーブ通訳  寒気がした。
マイケル通訳  同感です。
スティーブ通訳  こんなの、素人が体操してるようなものじゃないか。
マイケル通訳  同感です。
秋本  プロデューサーさん、折り入って相談があります。いっそのこと公演中止にしませんか?
上条  アホなこと言うな。ブロードウェイの舞台に立ちませんかって言うから来たんやで。
秋本  しかし・・・すみません、はっきり言います。我々の出来は最低です。
兼島  みんな感激していた言うたやないか。
マイケル  その場しのぎです。
遠藤  うちの子もほめてたで。おかん、ようやったなって。
秋本  遠藤さん、なっちゃんが徹夜で勉強して赤点とったら何て言いますか?
遠藤  ようやったな、あ。
秋本  皆さんよく頑張りました。でも我々は素人です。素人がブロードウェイの舞台に立つこと自体無理な話です。
上条  何でもっと早う言わんの?
兼島  ほなあんた何か?最悪や思うていながら黙ってここまで来たんか?
笹本  ウチら農家や思うてバカにしたらあかんで。
遠藤  冗談やない。
スティーブ通訳  そうだ、冗談じゃない。

全員沈黙。

時森  ・・・あんたまで何言うん?
スティーブ通訳  冗談じゃない。こっちは商売でやってるんだ。
マイケル通訳  ホワイトさん・・・
スティーブ通訳  もうチケットも売ってしまった。プレイビルを見ろ(と、懐からプレイビルを出す)ここにほら、広告も。「日本の農村から生まれた奇跡のミュージカル」とちゃんと広告も打ってある。一週間後にはオープンだ。今更どうにもならない。
マイケル通訳  しかし、踊りを見たでしょう?
スティーブ通訳  一週間特訓しろ。
マイケル通訳  無理です。そんなことでいいならとっくにやってます。
安西  やるだけやってみたらええんとちゃう?ダメならダメでええし。
スティーブ通訳  ブロードウェイをなめないでくれ。オープンしたら翌日には新聞に批評が載る。出来がひどければそれはもうボロくそに書かれる。酷いときにはそのプロデューサーの舞台には二度と客が来ないこともある。
秋本  ・・・こうしたらどうですか?もっとも厳しい批評家に見てもらいましょう。プロの舞台でもけちょんけちょんにけなすような人に。
マイケル  そんなことしたら、私もホワイトももうブロードウェイでは生きていけない。
秋本  そうでしょうか?もっとも厳しい批評家ですよ。きっと日本ではそれなりの評価を受けた舞台だったけれど、さすがにあの先生のお眼鏡にはかなわなかったか。まさか見せたのが素人ミュージカルだったとは思わない。
マイケル  そんなにうまくいきますか?
秋本  玉砕覚悟。そうでしょう?
スティーブ通訳  ・・・アレン先生だ。
マイケル通訳  アレン?ジム・アレン?
秋本  有名人ですか?
マイケル  有名も何も、ブロードウェイでは泣く子も黙ってもう一度泣くというほど恐れられている批評家です。半世紀以上ミュージカルを観続けてきて、そのお眼鏡にかなった舞台は五本とないと言われています。
秋本  あとはボロくそですか?
マイケル  キャッツを観て「ぼったくり猫屋敷」と評したことで知られています。
秋本  ぴったりじゃないですか。
千景  けなされるためにやるん?ウチいややで。
兼島  ウチも。
マイケル  このミュージカルのテーマをしっかり説明しましょう。日本の農村復興のために来たと説明すれば、その社会的意義までは踏みにじれません。そんなことすれば国際問題です。
スティーブ通訳  他に案はないのか?
マイケル通訳  一か八かです。
スティーブ通訳  ・・・任せた。責任は君が取れ。

No.18 ジム・アレン

おばさんたち 誰もがおそれる ジム・アレン
おばさん以外               足かけ 五十年
おばさんたち 誰もが敬う ジム・アレン
おばさん以外               芝居の神様

おばさんたち 泣く子も黙って ジム・アレン
おばさん以外                もう一度 泣かされ
おばさんたち 誰もが震える ジム・アレン
おばさん以外               恐怖の批評家

マイケル・通訳 点滴しながら ヨボヨボ歩いて ショボショボ眼光る
千景・秋本  天敵などない 無敵の批評家 今裁き下す

真那加が紙をめくる。「サージェント劇場五日後」と書いてある。
ヨボヨボの老人が車椅子に乗って現れる。左には通訳、右には看護婦を連れて。看護婦は点滴を持っている。

おばさんたち 後には退けない 止められん
おばさん以外               やりきれん この試練
おばさんたち 死かけてるのか? ジム・アレン
おばさん以外                 死神死なない

全員      点滴しながら ヨボヨボ歩いて ショボショボ眼光る 
        天敵などない 無敵の批評家
おばさんたち   今裁き     下る
おばさん以外       今天罰 下る

No.18 終わり 

15

スティーブ通訳  ようこそお越しくださいました。
時森  や、ほんまにこんなじいさんが観るんか?
高山  点滴しとるで、大丈夫か?
遠藤  いくつやろ?
マイケル  今年九十二歳です。
上条  あれ、目見えとるん?
アレン  ハジメマシテニホンノミナサン。
時森  日本語しゃべりおったで。
マイケル  アレン先生は、第二次大戦直後日本に駐在していらっしゃいました。日本語もある程度は。
アレン  トシハトッタガメハタシカ。
上条  自慢しとる。
アレン  リンゴカワイヤカワイヤリンゴ。シナガワ、シンバシ、トウキョウ。
兼島  何が言いたいんや?
アレン通訳  私は日本びいきです。
スティーブ通訳  さっそくで申し訳ありませんがアレン先生、こちらの方々は・・・
アレン  ハヨヤレボケ。
アレン通訳  事情はもう聞いた。早く上演しろ。
スティーブ通訳  はい。ささ、皆さん舞台に上がってください。
時森  (手を叩いて拝む)
秋本  何してるんですか?
時森  玉砕覚悟やろ。

時森を見て、他のおばさんたちも手を叩いて拝む。

吉村  (いかにもわざとらしく)あ、飛行機村の飛行機や!

いつの間にか芝居に入る。かなり下手な芝居。

高山  打ち落としたろか。
時森  待ち。

No.19 やりとうない(リプライズ)

おばさんたち お先は真っ暗我が村に 奴等がいたんじゃ明日は無い
       (進め! 倒せ!     今夜!)
千景          (止(や)めて 今夜!)
秋本                 (今夜!)

おばさんたち 負けるな絶対 打ち倒せ 対決する 力の限り
              (絶対うち倒せ そう力の限り)
秋本     (止(と)めよう絶対     そう力の限り)

全員     嗚呼 今夜 やりとうない!

おばさんたちは竹槍を手に取る。

おばさんたち  『突撃!

おばさんたちの竹槍を使ったダンス。といっても舞台を竹槍持って横切る程度のもの。
と、照明が怪しくなる。遠くの方で爆撃の音や終戦の玉音放送などが途切れ途切れに聞こえてくる。おばさんたちは、一瞬動きを止める。
アレンの様子がおかしい。

アレン  『ア・・・ア・・・・(何かを言いたいらしい)
アレン通訳  『・・・懐かしい、そうそう、竹槍だ、竹槍。銃後の守りは完璧だ。
おばさんたち  『訳分からん!

再び動き出すおばさんたち。
両村、にじり寄る。
ちょうどアレンの目の前で、二つの村が激突する。その瞬間、

アレン  『モンペ・・・モンペ・・・タケヤリ・・・ギョクサイ・・・バンザイ!(俯く)

No.19 終わり 

スティーブ通訳  ・・・アレン先生?
看護婦  Hey, hey! Wake up!
安西  どないしたん?
千景  寝たんとちゃうん?
スティーブ通訳  アレン先生!アレン先生!(とアレンを揺する)
マイケル  ・・・息していない。救急車だ、救急車!
上条  ホンマに?
マイケル  皆さん、下がって!
高畑  あの・・・
マイケル  何ですか!
高畑  看護婦さん、点滴。

見ると、アレンの腕から点滴が外れてぶら下がっている。
全員沈黙。

看護婦  (アレンの腕に点滴を差し、知らばっくれる)
高畑  今、外れてたぞ。
看護婦  No! No! No!
高畑  絶対外れてた。
千景  ウチも見た。
アレン通訳  (黙ってアレンの顔に布をかぶせ、自分は十字架のネックレスをつける)
マイケル  (アレン通訳に)あんた何してるんだ!
スティーブ通訳  いいから早く救急車!

看護婦は「No」を繰り返しながらアレンを連れていく。

秋本  どうするんですか?
マイケル  今日のことはご内密に。
秋本  ご内密と言ったって・・・
高畑  死んだら内密もへったくれもない。
千景  あのおじいさん、最後に何か言ってなかった?
秋本  何かって?
千景  モンペがどうしたとか・・・
高畑  良くは聞き取れなかったけれど、最後にバンザイって言ってた。
スティーブ  What is BANZAI?
スティーブ通訳  「バンザイ」とは何ですか?
秋本  嬉しい時に「バンザイ!」って。
マイケル  アレン先生は喜んだのか・・・何に?
笹本  ウチらにちゃうん?
マイケル  まさか。
笹本  まさかって何や失礼な。
マイケル  ・・・そうだ、こうしましょう。アレン先生は、日本から来たあなたたちの舞台があまりにすごかったため、観劇中にお亡くなりになった。

16

気が付くと、記者たちが現れている。 

No.20a モンペショック!(劇伴奏)

記者1  『どうすごかったんですか?
マイケル  『それは観てもらうより仕方がない。
記者2  『アレン先生は他に何か話されましたか?
マイケル  『そう言えば・・・モンペ、モンペとうなされるように・・・

記者3  『モンペ?
マイケル  『このパンツのことです(と、おばさんたちを指す)
記者1  『Monpe・・・
記者2  『Monpe・・・
記者3  『Monpe Shock・・・
記者たち  『Monpe Shock!

真那加が紙をめくる「NYタイムス誌」と書いてある。

記者1  『舞台評論家ジェームズ・K・アレン氏は四月六日、サージェント劇場で観劇中に心臓発作で死去。九十二歳の評論家人生に幕を引いた。
記者2  『アレン氏は当日、日本から来た劇団のプレビューに招待されていた。

真那加が紙をめくる「ヘラルド・トリビューン誌」と書いてある。

記者3  『目撃者の証言によると、アレン氏は亡くなる直前に「バンザイ」と叫んだという。
記者2  『バンザイ
記者3  『喜びを表す日本語。
記者1  『まさに日本に精通していたアレン氏の最期にふさわしい。

真那加が紙をめくる。「ショービズ・トゥデイ」と書いてある。

記者1  『アレン氏の「バンザイ」発言について、様々な憶測が流れていますが、共通しているのは例の日本人ミュージカルについてです。
記者2  『アレン氏は日本人ミュージカルに感激し。
記者3  『感激し。
記者1  『その感激のあまり心臓発作を起こしたのではという噂が広まっています。

No.20a 終わり 

記者1  関係者の証言です。ロズマンさん、こんにちわ。
マイケル  こんにちわ。
記者2  アレン氏の様態に気が付いたのは?
マイケル  劇中、突然「バンザイ!」と叫ばれた時です。
記者2  それはどういう意味で?
マイケル  さあ・・・一つ言えることは、バンザイは、
記者3  喜んだ時に言う言葉。
マイケル  そうです。
記者1  ちなみにこのミュージカルは・・・
マイケル  明日から正式にオープンいたします。
記者1  本日は予定を変更して「Monpe Shock!追悼ジム・アレン先生」をお送りしました。

真那加が紙をめくる。「サージェント劇場」と書いてある。

真那加  それから奇妙なことが起きた。劇場の前に長蛇の列ができたんや。口々に「Monpe Shock!」と叫んでた。アメリカ人のすることはよう分からん。 

No.20b モンペショック!

三人の批評家が現れる。先ほどの記者たちは、タイプを打つ。

批評家1   とんでもない舞台だ 訳分からない
批評家2   誉めようもない 評価外
批評家1   だけど無視できない
批評家2    アレンの評価
批評家1&2  自信持てない

批評家3   気でも狂ったのか? アレンどうした? 止めようもない
批評家1&2  バンザイ
批評家3   こうなったら仕方無い 赤信号 
批評家全員  みんなで渡ろう

記者1  『(タイプし終わって、紙を読む)「アレン先生には心から哀悼の意を表したいが、この舞台を観て天国に行かれたことは、ある意味幸せなことだったかも知れない」
記者2  『(タイプし終わって、紙を読む)「ミュージカルの新たな可能性。これこそ生命の躍動だ」

記者3  『(タイプし終わって、紙を読む)「Monpe Shock!ブロードウェイが停滞している間に日本ではかくも素晴らしいミュージカルが生まれていたとは!今後数年はブロードウェイにMonpeスタイルが流行ることは間違いない」

批評家たち+記者たち モンペショック! みなおののく ジム・アレン バンザイ
        モンペショック! みな驚く 大騒ぎ

人々     とんでもない舞台だ 訳分からない 誉めようもない 評価外
       だけど無視できない 世間の評価 自信持てない

       気でも狂ったのか? みんなどうした? 止めようもない バンザイ
       仲間外れはイヤ なんでもいいや もう祭りだ 

真那加  『批評の記事を見て客が集まる。見終わった客はみんな首を傾げる。それを見て、また別の客が観に来る。悪循環や。どんどん客が来る。五月も、六月も、七月も、八月も、ずーっと公演は続いた。時々、
時森  『今日は堪忍して。腰痛いねん。

真那加  『という理由で公演中止になることもあった。未だかつてそんな理由で公演中止になったミュージカルはない。そこが新鮮やってまた変に受けた。
スティーブ通訳  『私は初めから分かっていたよ。これは本物だ。
真那加  『という調子のいいことが言えるのも、客が来たからや。ほんま、何がきっかけでヒットするか分からんわ。

記者に囲まれるおばさんたち。

記者たち+人々  モンペショック!
おばさんたち    みな叫んで 大騒ぎ
記者たち+人々   バンザイ
         モンペショック!
おばさんたち    花嫁来て 乙村

真那加  『外人が来られても困るんやけど。

離れた場所に記者2が淡路浜男と共に立っている。

淡路  『このミュージカルの企画に携われたことを大変名誉に思っています。彼女たちの熱意、そしてエネルギー、きっとブロードウェイに立てると信じていました。私も日本から応援したいと思います。兵庫県会議員、自由民主保守公明党の淡路浜男でした。ご静聴ありがとうございます。

記者2と淡路は去る。

人々+評論家+記者 とんでもない舞台だ 訳分からない 止めようもない バンザイ
       仲間外れはイヤ なんでもいいや もう祭りだ

全員      モンペショック! 声轟く 素晴らしき バンザイ
        モンペショック! みな驚く 大騒ぎ
        モンペショック! 声轟く 素晴らしき バンザイ
        モンペショック! みな驚く 分からない
        空騒ぎ まやかしに 大騒ぎ!

No.20b 終わり

17

スティーブと通訳が現れる。

スティーブ通訳  ブロードウェイに進出しようじゃないか。
秋本  ・・・ブロードウェイって、今やってませんか?
マイケル  いや、今のサージェント劇場はオフ・ブロードウェイなんです。
秋本  オフって?
マイケル  ブロードウェイというのはもっと街の中心にあって、劇場も広い。オフ・ブロードウェイは、もうちょっとこじんまりと公演をする、言ってみれば・・・
兼島  二軍みたいなもの?
マイケル  まあ、そんなものです。
上条  何や、ウチら二軍かい?一軍にはいつ上がるんや?
スティーブ通訳  皆さんの人気なら全然問題ない。
上条  由希ちゃん、どう思う?
千景  行けるものなら行きたい。な、高畑さん?
高畑  え、ええ、でもいいんですか?
上条  ほな決まりや。行こ、一軍行こ。
マイケル  舞台ももっと派手に。衣装ももっと豪華に。
高山  モンペに豪華も何もないで。
吉村  あるある、リバーシブルや。
高山  たから、それは気づかれへんて。
安西  何かやる気出てきたわ。
時森  ウチ、降りてもええ?

全員沈黙。

兼島  時さん、何言うてんの?せっかくの誘いやで。行ったろや。
時森  もうじき収穫の時期やん。ウチ手伝わんと。
上条  そんなん旦那に任せたらええやん。
時森  あんたんとこみたいに裕福やない。ウチも収穫手伝わんと間に合わんわ。
吉村  ・・・そやね、ウチも帰るわ。
上条  あんたまで何言うん?
吉村  真那加に家事任せっぱなしやし。ちょっと心配になってきた。
安西  ほな、ウチも帰るわ。
上条  あんたんとこは収穫も家事も心配ないやろ。
安西  アメリカで嫁探しできる?このミュージカルは嫁来いサミットで決めたことや。嫁探しせなあかんやろ。
時森  ウチら、本職は農業や。舞台にトマトは生えん。
上条  ・・・分かった。議長が言うならウチも帰るわ。
スティーブ通訳  ちょっと待て。どういうことだ。
上条  もう飽きたから日本に帰るわ。堪忍。
マイケル  ちょっと待ってください。急に言われても。
上条  しゃあないやん、時さんとこ、また今年も不作になったらいよいよ一家そろって首吊らなあかんのや。
時森  そういうことはアメリカに来てまで言うことやない!
マイケル  いつ帰るんですか?
安西  決めたんやから、急いだ方がええね。収穫始まってからやと遅いし。
上条  明日には帰ろか?
マイケル  まだ一ヶ月以上も公演が残ってます。
兼島  そんなん知らんわ。誰か代わりにやってもらい。
マイケル  そんな勝手な・・・もっとプロ意識を持ったらどうです。
安西  堪忍な。ウチら、畑のプロなんよ。 

No.21 乙村へ(リプライズ)

おばさんたち 海を越え空を越え 懐かしい故郷へ
       ひなびた村田舎暮らし乙村へ 不便だらけ  
       バスは一日三度 此処も今夜が最後
       ウチらが住む 乙村へ

マイケル、スティーブたちはいつの間にか去っている。
秋本が浮かない顔で立っている。

兼島  『秋本はん、何浮かない顔してるん?
秋本  『いや、また農業に戻るんだなぁと思って・・・
兼島  『イヤなん?
秋本  『イヤじゃないですよ、もちろん。でも、また失敗続きだなぁと・・・
兼島  『秋本はん!
秋本  『はい!
兼島  『根拠のない自信。
秋本  『・・・はい。

暗転。真那加だけが残る。

No.21 終わり 

(二幕終了) 

エンディング

真那加  ここから先は後日談や。秋本さんはその後村にすっかりとけ込んで、いつの間にか芸能部長なんて肩書きがついた。といっても村祭りの企画とかそんなしょうもない仕事ばっかりやけど。農業の方は・・・今一つみたいやね。何でも今度農協に勤めることになったみたい。
 あのマイケルさんというけったいな外人は、これ風の噂に聞いたんやけど、おかんたちが勝手に帰ってしもうた責任をとって、劇場を首になったみたいや。それでも自分一人でミュージカルをつくると息巻いていて、スポンサーを探しているみたい。今度のテーマは遺伝子組み替え作物と環境ホルモンだそうで、見所は環境ホルモンが生態系を破壊するダンスシーンだとか。ブロードウェイ史上もっとも生物学的知識に富んだミュージカルになるようなので、スポンサーになってみたい方は連絡してあげてください。ウチは勧めんけど。
 由希子姉ちゃんはブロードウェイで主役を努めたという肩書きをひっさげて東京に帰っていった。肩書きってすごいんや、フリーの女優なのに出演依頼がひっきりなしに来ているんやて。言い忘れたけど、あの高畑という人は由希子姉ちゃんのマネージャになった。あれ、一生尻に敷かれるとウチは思ってる。
 淡路浜男は村おこしに貢献したことでイメージアップ。次の選挙も間違いなし。のはずやったんだけど、遊説先で暴漢に刺されてしもた。命に別状はないようやけど政治生命はもうおしまいやともっぱらの評判や。何でも診察したらお尻にしっぽが見えたいう噂もあるようやけど、ウチには何のことかよう分からん。
 そして、おかんたちは・・・日本に帰って収穫を手伝った。おかげで今年は時森のおばさんちも豊作だったみたい。それからしばらくして、東京からプロデューサーと名乗る人が来て、東京で公演しませんかて言ってきた。場所は、新国立劇場や。

真那加  客は大入満員や。みんな手拍子打ってる。お客さんの中には本気で拍手して る人もおる。ブラボーなんて叫んでる人もおる。でも大方の人たちは、拍手しながら何で自分が拍手してるのか分かっていない。拍手なんてそんなもんや。隣が拍手したら自分も拍手する。そのうち拍手が蔓延する。拍手ってうつるんやね。欠伸と同じ。病気と同じ。そうや、こいつは拍手病や。拍手病にならないためにはどないすればええんやろ。一番の予防法は、大きく深呼吸してみることや。そして自分に問いかける。「これってそんなにおもろいか」って。
ウチの結論は単純やった。(深呼吸する)「これこそ史上最悪のミュージカルや」 

No.22 それがウチらの歌(フィナーレ)

おばさんたちが現れて、オープニングの歌に戻る。

おばさんたち 馴れない場所で 馴れない顔で 馴れない歌 馴れない声で
       光に照らされてる 誰もがみんな見てる
       できることしか できはしないが できないこと できないままに
       気張り過ぎと言われようが 気にせず歌え歌

        バラバラな声が バラバラに歌う バラバラな人が バラバラに踊る
        バラバラに鳴り響け バラバラに舞い踊れ
        ぎこちないけれど それが ウチらの歌

真那加 『皆さんも、拍手病にはご用心。

全員出てくる。
(ここでカーテンコールをする場合は、以下、歌いながら、もしくは歌わずにカーテンコール。)

全員     背の低い人 背の高い人 痩せてる人 太っている人 瞳に映る姿 誰もがみんな違う
       ときには低く ときには高く 歌は響く バラバラに響く
       体中で叫ぶ声が 舞台に木霊する

(歌わずにカーテンコールした場合もここからは歌う。)

全員      バラバラな人がバラバラに歌う バラバラな人がバラバラに踊る
        バラバラに鳴り響け バラバラに舞い踊れ
        ぎこちないけれど それが ウチらの歌
        少しでもマシに なれば ウチらの歌

真那加が紙をめくる。「おしまい」と書いてある。

No.22 終わり 

(了)

『オカン ブロードウェイへ行く』について

作品について

創作の経緯

 本作品は、吉本興業(株)からの委嘱作品であり、全編書き下ろしである。

上演時間

 一幕約60分、2幕約50分。音楽の全演奏時間は約60分。

楽器編成

1 Pianoforte
1 Electric Bass
1 Drums
1 Electric Guitar (additional)
1 Synthesizer [ Organ / Strings / Synth Bell ] (additional)

 1 Pianoforte、1 Electric Bass、1 Drumsのパートのみでも上演可能である。(なお、このHTMLにおいて参照されるMIDIファイルは、この3パートのみの演奏データである。) 初演時は、MIDI演奏の録音を伴奏に用いた。

上演記録

初演

時:2000年8月19日(土)〜8月20日(日) 2ステージ
所:大阪 なんばグランド花月

キャスト

おばさんたち・吉村真那加・ニューヨークの人々: 辻イト子、みかん山プロダクション
秋本雄一: 要冷蔵[劇団往来]
雪村千景(由希子): 南美和子[みかん山プロダクション]
高畑弘文: 丹羽努
淡路浜男: ぼんちおさむ
マイケル・ロズマン: チャド・マレーン[ジパング上陸作戦]
ジャン・ドゥ・ボワール、記者: 加藤貴博[ジパング上陸作戦]
カール・ヘックマン、記者: アンディ岸本[劇団往来]
スティーブ・ホワイト: 宮川サキ
 (役名をキャサリン・ホワイトとし、女性役とした)
ジム・アレン: あいはらたかし[劇団往来]
座長、記者: 十六針刃太郎[劇団往来]
他: 玉垣弥生[T・D・Sダンススタジオ]、大西香代子[T・D・Sダンススタジオ]

スタッフ

台本: 清水順
作詞・作曲: 田廻弘志
演出: 鈴木健之亮
振付: メグマリコ
振付助手: 玉垣弥生、大西香代子
舞台監督: 小林伸英
舞台美術: 阪本雅信
宣伝美術: (株)ネイキッド + 義本紀子
照明: 永谷信夫[(株)ハートス]
音響効果: 荒川裕次
衣装・小道具: 劇団往来
歌唱指導: 野口尚宏
演出補: 中島桃太郎
制作: 手島英治[劇団往来]、中島渓子[劇団往来]、山口真奈美[吉本興業]
製作: 吉村昌晃[吉本興業]、木村深雪[吉本興業]
制作協力: (株)アイエス、みかん山プロダクション、(株)劇団往来
主催: 吉本興業(株)


© 2000 Jun Shimizu & Hiroshi Tamawari ALL RIGHTS RESERVED.
 無断での上演・演奏・転載を禁ず。