09 天地一切清浄祓 Tweet
iTunes楽曲販売ページはこちら(一部試聴可)
詞:神道祭文による
曲:tamachang [猫村いろはV4(Natural)]
歌詞
天清浄 地清浄 内外清浄 六根清浄と祓給う
(てんしょうじょう ちしょうじょう
内外清浄 六根清浄と祓給う
(ないげしょうじょう ろっこんしょうじょうとはらいたまう)
天清浄とは 天の七曜九曜 二十八宿を清め
地清浄とは 地の神 三十六神を清め
内外清浄とは 家内三宝 大荒神(だいこうじん)を清め
六根清浄とは 其の身 其の体の穢を 祓給え 清め給ふ事の由を
八百万の神等 諸共に 小男鹿(さおしか)の八の御耳を振立てて 聞し食せと申す
詞について
修験道の系譜にある祭文。修験道についてのおおまかな説明は「贋作秋葉原密真言」に書いたので割愛し、ここでは、この祭文を例に、もう少し掘り下げて説明してみます。
神道、道教、仏教
この祭文には「祓」とあるので、神道の祝詞の体裁です。その内容は、「祓給え 清め給ふ事の由を…八百万の神等」に「…聞し召せと申す」もので、「禊祓」とよく似た構造になっています。けれど、禊祓と比べると、やたらと漢字の熟語が増えていて、漢字文化が日本に根付いたのちの祭文であることがよくわかります。
また、禊祓では「天の斑駒の耳振立て」となっているところが、「小男鹿の八の御耳を振立てて」となっています。山あいの地域では馬がいなかったので、山でよくみかける鹿に置き換わったのかもしれません。
「天の七曜九曜 二十八宿を清め」という部分は、中国の天文学と占星術に関連する用語。「七曜」は「木火土金水」の五行に「日」と「月」を加えたもの、あるいは北斗七星のこと。「九曜」は、七曜に日食と月食を加えた概念。「二十八宿」は、月の満ち欠けの周期に基づいて天球を28に区分けしたその部分のことを指すようです。
「地の神 三十六神」は、調べるもよくわからず。12の倍数であるので、十二支に関係するのかもしれません。
「三宝大荒神」は、おそらく「三宝荒神」のことで、仏・法・僧の三宝を守護し、不浄を取り除く日本独自の仏神のこと。日本古来の荒魂(あらみたま:荒ぶる神の魂)のイメージが仏教と混交したもののようです。
「六根清浄」は、仏教に由来する用語で、「六根」とは、般若心経の経文の中にある「無眼耳鼻舌身意」の「眼(視覚)耳(聴覚)鼻(嗅覚)舌(味覚)身(触覚)意(意識)」のことです。「各感覚器と心を清らかにする」というような意味になります。
楽曲について
この楽曲もまた、「トホカミエミタメ」と同じく4声合唱です。けれど、この楽曲は、「トホカミエミタメ」とは異なり、日本的な歌い方(節回し)の中に和声を置こうとしています。ボーカロイドによる極端な「メリスマ(音韻を引き延ばしてさまざまなリズムや音程をとること)」を試すための楽曲ということです。
「メリスマ」という語は西洋音楽の用語で、本来は五線譜に実際に音符の書かれるようなものを指します。西洋人たちは、それを音符という図形の中で量子化していくのですが、それ以外の地域では、その歌い方が、ビブラートなのか、コブシなのか、(音程の異なる音であるところの)メリスマなのか、という区別は曖昧です。
まとめると、この楽曲は、以下の連立方程式を組み、それを解いたものになっています。
・祭文の文言、音韻にしたがって音を配置すること。
・律旋法の中に旋律を置くこと。
但し、主旋律は、長く伸びるメリスマを持たなければならない。
・メリスマ、またはコブシをすべての声部が持つこと。
・西洋音楽の和声を用いること…但し、それは、ドビュッシー以降の2度音程を含む、
近代的な和声であってもかまわない。
合唱の伴奏には、「伏せ鐘(がね)」と呼ばれる伏せて置いて叩く鐘と、「鈴(りん)」という神道の鈴(すず)とは異なる仏教の鈴だけを使っています。この2つの鳴り物の組み合わせは、「和讃」と呼ばれる仏教の伝統歌の様式にならっています。和讃とは、仏教の教えを日本語の歌詞で歌う伝統的な歌謡です。
また、メリスマの構築には、日本の伝統的な民謡の謡い方のほかに、ほとんど無伴奏で和歌を謡う「白拍子(しらびょうし)」と呼ばれる謡いの節回しも取り入れています。白拍子は平安から鎌倉時代にかけて流行した歌謡で、現代に伝わるその歌い方を聴くに、音韻を長く伸ばし、その伸ばした音が拍を刻むように半音下の音程に一瞬下がって、装飾音を伴うように歌うようです。そのやり方は、各音をダンギングなどで区切ることのできない楽器、たとえば篠笛やバグパイプが、細かなな装飾音を用いて音を区切っていくという方法によく似ています。こうした表現は単純ではあるけれど、効果的で面白い。